暗殺された政治家ボリス・ネムツォフ氏の盟友で、ロシアの反政権の運動活動家が、5月29日、多臓器不全で重体に陥った。友人たちは毒を盛られた確信が深まったと語っている。
ウラジーミル・カラ=ムルザ氏(33歳)は26日、モスクワの仕事場で倒れ、その後、意識不明になった。
ネムツォフ氏殺害場所に花をささげる女性。プーチン政権に批判的だった同氏は2月、銃で撃たれて死亡した=AP
病院当局は、同氏が肺炎と腎不全にかかっていると伝えているが、容体をよく知る人々の話では、カラ=ムルザ氏は、他の臓器にも機能障害が広がり、現在、生命維持装置につながれた状態だという。妻は、同氏を海外に移送して治療してほしいと訴えているが、医師団によれば容体は深刻で、モスクワの病院から別の場所へ移すことはできないという。
これまで健康に何も問題がなかったといわれていたカラ=ムルザ氏は、イスラエルから飛行機で到着した毒物学者による検査を29日に受けた。子ども3人と米ワシントンに在住する同氏の妻は、同日モスクワへ駆けつけた。
毒を盛られたことが確認されれば、カラ=ムルザ氏は、体制の民主化を訴えてクレムリンを批判し、明らかに標的にされたと思われる一連の活動家の新たな一人となる。
説明のつかない同氏の病変により、民主化を訴える反政府運動にさらなる暗雲が立ちこめている。多くの人々は、2月に起きたネムツォフ氏の射殺事件を、こうした活動を中止するか、ロシアから出ていけとの警告だと見ていた。
■ネムツォフ氏の盟友
ネムツォフ氏と緊密に連携してきたカラ=ムルザ氏は、ネムツォフ氏のロシア共和党-国民自由党の政治委員会のメンバーを務めている。また、10年服役して現在は亡命中の元新興財閥の長、ミハイル・ホドルコフスキー氏が創設した市民社会組織、オープンロシアの共同責任者もモスクワで務めている。
カラ=ムルザ氏は、チェチェン共和国の指導者カディロフ氏を激しく批判するドキュメンタリーをオープンロシアが発表した翌日、病気になった。カディロフ氏とつながりのあるチェチェン人たちは、ネムツォフ氏殺害への関与が取りざたされているが、容疑を否定する。
ケンブリッジ大学で学び、多言語に精通していたカラ=ムルザ氏は、殺害された弁護士セルゲイ・マグニツキー氏の真相究明運動にも取り組み、米国議会で採決された、マグニツキー氏殺害に関与したロシア政府職員の入国を禁じる「マグニツキー法」と同様の法律を制定するよう各国に呼びかけていた。マグニツキー氏はロシア政府高官による2億3200万ドル(約288億円)の横領を調査中に逮捕され、2009年、拘留中に殴打されて死亡した。