【ロンドン＝黄田和宏】債務問題に直面するギリシャに対し、欧州連合（ＥＵ）が支援を延長しないと決めたことを受け、週明け29日の国際金融市場では投資家がリスクを回避する動きが広がり、株安が世界に波及した。ギリシャが欧州の単一通貨ユーロから離脱するシナリオが再燃し、投資家は他の南欧諸国への飛び火を警戒し始めている。一方でＥＵ側はギリシャに改めて譲歩を要請し、危機回避への努力を継続する立場を表明した。

29日、アテネで年金を下ろすために休業した銀行の前に並ぶ年金生活者ら＝ＡＰ

ギリシャは国際的な支援がなければ、30日が期限となる15億ユーロ強（約2000億円）の国際通貨基金（ＩＭＦ）への債務の返済は困難との見方が大勢だ。

週末のギリシャ・ショックを世界の主要市場で真っ先に受ける形となった東京市場ではユーロが大幅に下落。対ドルで一時１ユーロ＝1.09ドル台後半と２％近く下落した。対円でも１ユーロ＝133円台後半と、前週末に比べ４円以上の円高・ユーロ安水準をつけた。

株式市場は全面安となった。日経平均株価は前週末に比べて596円下落した。ほぼ１年５カ月ぶりの下落幅になる。中国株の大幅安も相場の重荷となり、海外投資家を中心に運用リスクを回避する売りが広がった。

日経平均の終値は前週末比596円（2.88％）安の２万0109円だった。

ギリシャの３年物国債（2017年償還）利回りは前週末の20％近辺から大きく上昇（価格は下落）。一気に37％台まで跳ね上がり、12年の欧州債務危機後の最高水準に達した。スイス金融大手のＵＢＳはロンドン時間28日夜（日本時間29日早朝）、急きょ投資家向けの電話会議を開き、「ギリシャのユーロ離脱リスクは４割になった」と警戒を促した。

投資家の間ではユーロ圏で債務危機が再燃するとの連想が強まった。欧州市場ではドイツ株が一時４％強下げるなど、全面安となる一方、安全資産に資金が逃避し、ドイツの10年物国債利回りは一時0.7％台前半に急低下した。スイスフランにも買いが膨らみ、スイス中銀は為替介入に踏み切った。

投資家が警戒しているのが、問題がギリシャにとどまらず、スペインやイタリアなどの南欧諸国に波及することだ。両国の10年債利回りは29日、0.2％程度高い2.3％台に上昇した。それでも、政策対応により危機は抑制可能との見方から、現時点ではパニック的な売りにはつながっていない。

12年をピークとする債務危機時には国債利回りの上昇で銀行の資産内容が悪化し、公的資本注入により財政負担が高まるという悪循環が広がった。当時と異なるのは「欧州中央銀行（ＥＣＢ）が量的緩和策を導入したことや、（危機に際しては）無制限に国債を買い入れることができるということだ」（ＪＰモルガン・チェースのグレッグ・フゼシ氏）。

ユンケル欧州委員長は29日の記者会見で「ギリシャのユーロ圏離脱は、これまでもこれからも選択肢ではない」と強調した。ＥＵが提案した緊縮策を受け入れるかどうかを問う７月５日のギリシャ国民投票では「（提案に）賛成してほしい」と訴えた。

ドイツのメルケル首相は29日、「いつでも話し合う準備ができている」と話し、ギリシャに歩み寄りを促した。イタリアのパドアン経済・財務相は29日付地元紙に「ギリシャ危機はイタリアに打撃を与えることはない」と語り、危機の波及を阻止するために全精力を傾ける構えだ。

29日の米株式市場でも売りが活発で、ダウ工業株30種平均の前週末からの下げ幅は一時約220ドルまで広がった。

ギリシャのアテネ証券取引所は銀行休業中の株式の取引を中止。現行の金融支援が期限切れとなる７月以降もＥＣＢによる資金繰り支援を得られるのか不透明で、国民投票まで金融システムが持ちこたえられるのか、緊張感が高まっている。