【アテネ=佐野彰洋】ギリシャのチプラス首相は29日、テレビに出演し、30日に支払期限を迎える国際通貨基金(IMF)からの借金について期限までに返済できないとの認識を示した。一方、7月5日に予定している国民投票で、債権団側から金融支援の条件として求められている財政再建策の受け入れに国民が賛成した場合は退陣する可能性に言及した。瀬戸際に立つギリシャの内政は混乱を極めている。
チプラス首相はIMFへの約15億ユーロ(約2000億円)の返済について「銀行が窒息状態にあるのにどうやって支払えというのか」と語り、債務返済は事実上不可能との見方を示した。IMFのラガルド専務理事は、返済猶予を拒否する意向を示している。ただ不払いだったとしても滞納とみなすことも考えられ、IMFがどのタイミングでギリシャの債務不履行(デフォルト)を宣言するかはわからない。
いまギリシャ国債を持っているのはほとんどがIMFなど公的な機関で、今回のIMFへの不払いが直接金融市場に与える影響は限定的とみられている。30日はギリシャの公務員給与や年金支払日でもある。債権団は、当面はギリシャの政局をにらみながら慎重に対応を協議することになりそうだ。
国際社会が固唾をのんで見守るなか、ギリシャ政治の混乱は拍車がかかる。チプラス首相はテレビ演説で、仮に国民投票で財政再建策が受け入れられた場合は「首相の座に居座るつもりはない」と退陣する意向を示した。
国民投票で勝利したうえで、民意を盾に債権団に再交渉を持ちかける捨て身のシナリオだ。首相は「私の電話は一日中つながる」と語り、対話する姿勢をアピールした。
英国のキャメロン首相は29日、「もしギリシャ国民が投票で反対票を投じるならば、ユーロ圏への残留は難しいだろう」と突き放した。一方でドイツのメルケル首相は同日、「国民投票後に対話を再開する用意がある」と語り、再交渉に含みを持たせた。
債権団側はギリシャが財政再建策を受け入れるよう圧力を強めている。欧州中央銀行(ECB)はギリシャの銀行を支える資金供給を絞り込む「兵糧攻め」に出た。ギリシャの銀行は29日から営業を停止。市民生活に混乱が続けば財政再建策容認に傾く人も増えていくとみられている。29日には財政再建策反対派が国会前に集まり1万人規模のデモを繰り広げたが、30日夜には賛成する親EU派のデモが予定される。