【ドバイ=久門武史】原油安で中東産油国の財政が悪化している。国際通貨基金(IMF)は報告書で、世界最大級の産油国であるサウジアラビアの準備資産が「5年以内に尽きる」と警告。補助金削減などの改革を促した。各国は国債を通じ資金を調達する構えだが、過激派組織「イスラム国」(IS=Islamic State)との戦費がかさむイラクは発行条件の悪さから計画の凍結に追い込まれた。産油国の信用力の低下は金融市場にも影響を広げそうだ。
イラク中西部で戦うイラク兵=AP
IMFは最近の報告書で、湾岸協力会議(GCC)に加盟する6産油国の実質成長率が2015年に3.3%、16年は2.8%に減速すると予測した。なかでもサウジの財政赤字は15年が国内総生産(GDP)比22%で、前年の3%から急拡大すると指摘。15年の財政収支はアラブ首長国連邦(UAE)が赤字に転じクウェートとカタールの黒字は激減するとみる。
最近の原油価格は国際指標の北海ブレントが1バレル50ドル前後。14年前半の高値の半額以下で推移している。サウジは過去の原油輸出収入を積み立てた準備資産を取り崩している。同資産の残高は8月、前年同月より11%少ない約80兆円に減った。
余力のある産油国は信用力を背景に、相次ぎ国債発行に動いている。
9月までにサウジは計350億リヤル(約1.1兆円)、カタールは150億リヤル(約5千億円)の国債を発行した。クウェートのサレハ財務相は9月末、15年末か16年初頭に同国通貨建ての国債を発行する意向を表明。調達額には言及しなかったが「必要があれば、次にドル建て国債の発行もためらわない」と述べた。
一方、信用力の低い産油国は思うように市場から資金を調達できない。代表例がイラクだ。同国の原油埋蔵量は世界5位。だが原油安で歳入が細る半面、IS掃討の戦費が膨らむ。IMFは15年のイラクの財政赤字をGDP比23%と予測する。
「利払い負担が重すぎるため、国際市場で国債を発行する計画を停止する」。イラクのナビ財務副大臣はロイター通信に、国債発行計画の凍結を表明した。ジバリ財務相は10月、利回りが11.5%に達すると連邦議会議員に明かしていた。
イラク政府は最大60億ドル(約7200億円)を調達するため、ドル建て国債を発行するための説明会を9月、投資家向けに開いた。だが、格付け会社フィッチ・レーティングスはイラクについて「政治リスクと治安問題が格付け対象のほかの国より大きい」と指摘する。イラク国債の格付けは投機的階級の「シングルBマイナス」だ。