2016年度の予算編成の焦点である診療報酬改定の構図が見えてきた。厚生労働省が4日まとめた調査から試算すると、薬の公定価格にあたる「薬価」の引き下げで医療費を1500億円前後(国費ベース)抑制できる見通しになった。政府が決めた歳出抑制の目標の達成には、さらに200億円前後を減らす必要があり、医師らの技術料にあたる「本体」を下げられるかが焦点だ。
診療報酬は医療サービスの公定価格で、薬価と本体からなる。16年度は2年に1度の改定年。膨らみ続ける日本の医療費の総額を左右する。診療報酬全体が下がれば患者や国・地方の負担が減る一方、病院や薬局の収入は減る。
厚労省が4日の中央社会保険医療協議会(厚労相の諮問機関)に提出した調査によると、病院がメーカーから仕入れた薬と医療材料の価格は公定価格に比べそれぞれ平均8.8%、7.9%低かった。仕入れ価格の下落に連動した値下げと、価格調整ルールによる見直しを合わせると、薬価部分で診療報酬を1.3~1.4%分押し下げると見込まれる。
政府は6月、高齢化による社会保障費の伸びを年5000億円に抑える目標を閣議決定した。厚労省が8月に16年度の概算要求で示した額から1700億円分を抑える必要がある。今年度は年金や介護で大きな制度改正はない。診療報酬を担当する厚労省幹部は「ほぼ全額を医療分野から捻出しなければならない」とため息をつく。
薬価の削減だけでは5000億円の目標に200億円前後届かないため、残りを医師や薬剤師の技術料にあたる本体の改定でまかなう必要がある。厚労省は制度改革では湿布の処方を制限したり、胃瘻(いろう)の高齢者への安易な栄養剤の投与を抑えたりする案を検討している。
本体マイナスを訴えるのは歳出を抑えたい財務省だ。一方で、厚労省は「医療従事者の賃金を上げるためにも本体の引き上げが必要だ」(厚労省幹部)と反論する。自民党の厚生労働族議員も来年夏に参院選を控えて本体プラスを死守したい考えだ。医療関係の団体から反発を受けるのは避けたい。「本体マイナスでは地域医療が崩壊する」。首相に近いとされる日本医師会の横倉義武会長も本体プラスを繰り返し訴える。
「大手チェーン薬局は100億円以上の利益が出ている。報酬を是正すべきじゃないか」。薬価調査を報告した中医協では、日本医師会の委員から、薬局が受け取る技術料の削減を求める意見が相次いだ。マイナス圧力がかかるなかでも、医師の技術料は削られたくない――。そんな意図も透けて見える。12月下旬の改定率の決着に向けて、関係者の調整は難航しそうだ。