前夫の暴力を理由に娘(33)の出生届を33年間出さず、戸籍がない状態にした神奈川県内の女性に対し、横浜地裁は20日までに、戸籍法違反で過料5万円とした昨年8月の藤沢簡裁の決定を取り消し、処罰しないとする決定を出した。代理人の南裕史弁護士が明らかにした。女性が昨年9月、即時抗告していた。
南弁護士によると、前夫との離婚前に別の男性との間に娘が生まれていた。松井英隆裁判長は「届け出ることで前夫に女性らの住所などを知られ、生命を脅かされる恐れがあった。法定期間内に提出しなかったのは、やむを得ない理由があった」と判断した。
地裁決定を受け、娘は横浜市内で記者団の取材に応じ「ようやく安心できる。精神的につらかった」と話した。現在は戸籍を取得している。
女性は1961年に前夫と結婚した。暴力から逃げるため、籍を抜かないまま80年に神奈川県へ移り、82年に新たな交際相手との間に娘が生まれた。民法772条は「婚姻中に懐胎した子は夫の子と推定する」と規定しており、前夫に娘の存在や自分の居場所を知られるのを恐れ、出生を届けなかった。
昨年6月、審判で実父が娘を認知。前夫とは2014年に離婚が成立していたため、審判確定翌日に出生届を提出した。
戸籍法では出生後14日以内に届け出るよう規定している。自治体から期間超過の通知を受けた藤沢簡裁は「期間を過ぎた正当な理由がない」として、過料の決定を出していた。〔共同〕