セブン―イレブン店主だった大家さんの2012年4月の損益計算書。「売上総利益」548万円のうち、本部へ支払うロイヤルティー「セブン―イレブン・チャージ」は306万円だった
コンビニに塾、ファストフード。今や身近なフランチャイズ(FC)ビジネスでは、多くの店主が働く。本来は本部と「対等」な関係のはずだが、「上下関係」や過労に悩まされる店主が少なくない。
コンビニ最大手「セブン―イレブン」の店主だった埼玉県川越市の大家史靖さん(42)は、「本部社員のパワハラに悩まされた」と話す。
「練馬南大泉5丁目店」(東京都)の店主になったのは2007年。事前に「1日の売り上げはすぐに70万円になる」と説明されたが、「自分は届かなかった」。人件費を削ろうと、ほぼ毎日出勤。夜通しの勤務も週3日ほど入った。
本部に払う「ロイヤルティー」は、「売上総利益」の半分以上。12年4月の損益計算書をみると、その額306万円。従業員の人件費などを引いて手もとに残った利益は14万円足らずだった。
「店舗経営相談員」と呼ばれる本部社員の日々の来店指導も厳しかった。返品作業にミスがあると、商品のドライフルーツの袋を壁に投げつけて怒鳴ったという。社長の視察が決まると、事前に店を訪れ、鍋焼きうどんの食品棚を片足で指し「何で空いてんだよ」と客前でなじったという。
13年5月、出勤途中に車を引き返し、山へ逃げた。数日後、病院に行くと「適応障害」と診断され、店主を辞めた。「弁護士に相談しても、雇用関係にないから難しい、といわれた。辞めるしかなかった」
セブン&アイ・ホールディングスは「店への指導で多少強い口調になったかもしれないが、ものを投げたり商品を足で指したりなどはしておらず、パワハラはなかった」としている。
■ノウハウ提供、ほとんどなし
個別指導塾を全国展開するFCに07年に加盟した男性は、「本部からのノウハウ提供がほとんどなかった」と振り返る。
本部から指導員が来るものの、指導といえば「窓が汚れている」「売り上げが低い」といったことばかり。それも、毎年のように担当者が代わった。
教え方のマニュアルもなし。テキストは市販の問題集の表紙を替えただけだったという。講師の採用も、自分で人材会社に広告料を支払って募集した。ロイヤルティーは年間売り上げの11~12%で、数百万円に上った。このほかにも、生徒が20人増えるごとに50万円、毎月の「広告分担金」1万5千円などの支払いもあった。13年秋、ロイヤルティーに見合ったサービスを受けていないと感じ、「きちんと指導してほしい」と本部にメールすると、年明けに社長や法務担当社員らが教室にやってきた。メールについて「本部への文句である」と断じ、いきなり「オーナーを辞めてほしい」と告げた。不信感が募り、退会して自分で塾を開くことにした。(疋田多揚)
■FC規制法が必要
《FC問題に詳しい中村昌典弁護士の話》 店主は、大きな組織の本部を前に、際限ない上下関係を強いられやすい。両者は雇用関係にないため、労働法も適用されにくい。店主の過労を招いたり、労組を作って交渉するのを本部が拒んだりする問題を生んでいる。店主の自由や裁量を不当に拘束しないよう、FC規制法を作ることが必要だ。
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〈フランチャイズ(FC)〉 コンビニなどにみられる、本部の外から店主を募る事業方式。店主は独立事業に比べてブランドやノウハウを活用できる代わりに、本部に対価(ロイヤルティー)を支払う。本部は、自社以外の労働力で事業を広げられるメリットがある。
本部と店主の関係は対等とされているが、仕入れ先の自由がなかったり、弁当の値引き販売が制限されたりするなど、経営の裁量に限りがあることが多い。2015年には東京都労働委員会が、裁量の少ないコンビニ店主は「労働者」だとする判断を示し、店主らで作る労働組合との団体交渉に応じるよう本部に求めた。
日本フランチャイズチェーン協会によると、14年度の国内のFCブランド数は1321。総店舗数は25万9千あり、売上高は24兆円。コンビニが5万6千店を占める。