高地がなく平べったいタロ島は、津波に弱いと判断された=郷富佐子撮影
南太平洋の地震多発国・ソロモン諸島で、州都がある島の全住民と州都としての機能を、まるごと別の島に移す計画が進んでいる。「津波や海面上昇の危険性が高すぎる」と海外専門家の調査チームが判断し、水没を恐れる住民らも受け入れた。前代未聞の全島移転には、数十年かかるとみられている。
■住民1千人、数十年かけて
首都ホニアラからプロペラ機で2時間余り。南北1キロにも満たないタロ島の飛行場は、未舗装の滑走路に雑草が茂っていた。
無数の島々からなるソロモン諸島で、タロ島は西部に位置するチョイスル州の州都だ。役所などの行政機関や病院などが集まるが、約3万人の州民の大半は2キロほど離れた、チョイスル島という大きな島に住む。タロ島で暮らすのは千人足らずで、車は2台しかない。
この小さな島が急に世界的な注目を集めたのは、2年前。州政府が「地球温暖化による水没を避けるため、島ごと対岸のチョイスル島に移す」と発表。タロ島の約12倍の広さとなる532ヘクタールをチョイスル島に確保すると決めた。ツバルやキリバスなど海面上昇で水没する恐れがある島国が多い南太平洋地域でも、島の住民や町がすべて移転するのは例がない。
大胆な決定の発端は、オーストラリア政府の支援で派遣された専門家チームの被害予測調査だった。タロ島の地形や海岸浸食の状況を調べたほか、住民の聞き取り調査などをし、2014年に発表した報告書で「今後も島に住み続けるのは危険すぎる」と提言。調査を率いた豪州の環境コンサルタント、フィリップ・ヘインズ博士は「調査前は海面上昇が念頭にあったが、最も危険性が高いのは、実は津波だとわかった」と話す。