マーシャル諸島
米国が核実験を繰り返したマーシャル諸島の周辺海域にいたとする元船員や遺族ら計45人が9日午後、国家賠償を求めて高知地裁に集団提訴する。元船員らは「1955年の日米の政治的な幕引きを背景にした公的調査の打ち切りで被曝(ひばく)を証明できず、損害回復の機会を失った」と主張。元船員1人あたり200万円の慰謝料など計約6500万円の賠償を求める。
特集:核といのちを考える
原告側によると、マーシャル諸島での核実験による被曝をめぐり、訴訟が起こされるのは初めてとみられる。マーシャル諸島での核実験のうち、静岡のマグロ漁船「第五福竜丸」がビキニ環礁近くで「死の灰」を浴びた54年3月以降、同年末までに延べ約1千隻が周辺を航行し、延べ270隻が高知の船とされている。
原告45人の内訳は元船員23人、遺族20人、支援者2人。訴状で、日米間の政治的幕引き前の調査によって延べ556隻の被曝状況が把握されていたにもかかわらず、国は2014年に市民団体側に開示するまで明らかにしてこなかったと指摘。そのうえで「故意に資料が隠された。健康問題が放置された元船員らの精神的な打撃と怒りは筆舌に尽くしがたい」などと主張している。
厚生労働省は昨年1月、第五福竜丸以外の被曝状況を評価する研究班を設置。報告書は今月末にまとまる見通しになっている。(西村奈緒美)
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〈マーシャル諸島の核実験〉 米国が1946~58年、太平洋のビキニ環礁とエニウェトク環礁で計67回繰り返した原水爆実験。54年3~5月に6回の水爆実験があり、周辺には多数の船がいたとされる。同年3月の実験では第五福竜丸が被曝したが、翌年1月に米政府が「見舞金」200万ドルを日本政府に支払うことで政治決着した。厚生労働省は2014年、第五福竜丸以外の乗組員らに対する検査結果などを開示。高知県の元乗組員らが今年2月、労災申請にあたる船員保険の適用を申請した。