作家の塩野七生さん=2014年、ラファエラ・スカリエッタ氏撮影
あの人は今、どう受け止めているだろう。オバマ米大統領の広島訪問が近づくなか、作家の塩野七生さんの考えを聞きたくなった。ローマの自宅に電話したずねると、「日本が謝罪を求めないのは大変に良い」という答えが返ってきた。塩野さんが思う、米大統領の広島訪問の迎え方、とは。
特集:オバマ米大統領、広島へ
――オバマ大統領が被爆地・広島を訪問することを知ったとき、まず、どう感じましたか。
「知ったのは、ローマの自宅でテレビを見ていた時です。画面の下を流れるテロップでのニュースだったけれど、それを目にしたとたんに、久方ぶりに日本外交にとってのうれしいニュースだと思いました」
「特に、日本側が『謝罪を求めない』といっているのが、大変に良い」
――どうしてですか。
「謝罪を求めず、無言で静かに迎える方が、謝罪を声高に求めるよりも、断じて品位の高さを強く印象づけることになるのです」
「『米国大統領の広島訪問』だけなら、野球でいえばヒットにすぎません。そこで『謝罪を求めない』とした一事にこそ、ヒットを我が日本の得点に結びつける鍵があります。しかも、それは日本政府、マスコミ、日本人全体、そして誰よりも、広島の市民全員にかかっているんですよ」
「『求めない』と決めたのは安倍晋三首相でしょうが、リーダーの必要条件には、部下の進言も良しと思えばいれるという能力がある。誰かが進言したのだと思います。その誰かに、次に帰国した時に会ってみたいとさえ思う。だって、『逆転の発想』などという悪賢い人にしかできない考え方をする人間が日本にもいた、というだけでもうれしいではないですか」
――悪賢い、とは。
「歴史を一望すれば、善意のみで突っ走った人よりも、悪賢く立ちまわった人物のほうが、結局は人間世界にとって良い結果をもたらしたという例は枚挙にいとまがありません」