両腕の代わりに腹筋と背筋を使って、水面へと呼吸に上がる中村智太郎=金川雄策撮影
9月7日に開幕するリオデジャネイロ・パラリンピックまで、30日であと100日。世界最高峰の舞台で戦い続けるパラアスリートの技術や使用する道具は、日々、進化している。それぞれの体の潜在能力を、どうやって最大限引き出すのか。最高のパフォーマンスを追い求める選手たちの姿に迫った。
リオ・パラリンピック2016
パラ・アスリートの最高峰に迫る連載「チャレンジド」
■水泳平泳ぎ・中村智太郎(31)
頭突きでゴールする。唯一の推進力は両足の蹴りだ。背筋と腹筋の力で上半身を押し上げ、息継ぎをする。キックも呼吸のタイミングも健常者と同じという平泳ぎは、「腕のかきがないだけ」。生まれた時から両腕はない。
特別な筋力トレーニングはしていない。ただ、ゴーグルの脱着から、車の運転、食事、名刺交換、スマホ操作――。日常の全てを足ですることで腰や臀部(でんぶ)が太く発達し、まっすぐに伸びた脚は177センチの身長をより高く見せる。器用に動く足が、水をも的確につかむ技術につながり、4年前のロンドン大会で銀メダルを獲得した。
「水に落ちても溺れないように」と親のすすめで5歳で水泳を始め、クロールに背泳ぎ、バタフライも習得。最も楽に泳げ、記録が伸びたのが平泳ぎだった。
昨夏、五輪金メダリストの北島康介さんに、練習で腕を使わずに50メートルを泳いだときのタイムを尋ねた。「35、36秒」。中村は38秒。「無駄なく泳げ」と助言され、キックの角度、その後のけのびで上半身を安定させること、呼吸時にあごを引くことを意識するようになった。
リオ大会で出場する100メートルの自己ベストは、2011年に世界タイ記録を出した1分21秒79。腕の有無にかかわらず、運動機能によるクラス分けのためライバルのほとんどは両腕を使って泳ぐ。この5年で、世界記録は7秒以上も速くなった。
4度目の出場。ロンドン大会後は燃え尽き、競技を離れたこともあった。「海外選手と競り合う緊張感、表彰台の感覚をまた味わいたい」(斉藤寛子)
■パワーリフティング・西崎哲男(39)
盛り上がった胸に、太い腕。23歳の時にトラック事故で脊髄(せきずい)を損傷し、車いす生活に。男子54キロ級のパワーリフターとして、自由に動かすことのできる上半身を鍛えに鍛え上げてきた。今では135キロのバーベルを持ち上げることができる。
動かせない下肢は、ぱっと見にもか細く、軽そうだ。だが、その分、同じ体重の健常者の選手よりも上半身の筋肉量は多いとされる。筋肉を肥大化させた胸や肩、腕に体重のほとんどが集まり、西崎の体は「70キロ級選手の上半身」とも言われる。