暴力団排除の標章が背景にあったとみられる事件が、また一つ動いた。4年前に起きた殺人未遂事件で、福岡県警が指定暴力団工藤会系組幹部らを逮捕した。幹部らの逮捕が相次ぎ北九州の街は平静を取り戻しつつあるが、一連の事件は今も影を落としている。
特集:工藤会
「あの時は客足が遠のいて大変だった。他の事件も早く解決してほしい」
店先に「暴力団員立入(たちいり)禁止」の標章を掲示し続ける北九州市小倉北区の飲食店。3日、男性店長(46)は工藤会系組幹部の田口義高容疑者(50)らの逮捕を聞き、そう話した。クラブを経営する会社の男性役員(57)が刺されたのは2012年9月の深夜。店長は「周りの店にも脅迫電話があり、次々と標章を外していった」と振り返る。
近くの飲食店経営の男性(59)は刺傷事件の直後、ビルのオーナーに頼まれ、警察官立ち会いの下で標章をはがした。近くで飲食店を営む女性らも相次いで刺されていた。容疑者は逮捕されず、「警察は市民を守らず、暴力団の矢面に立たせる気なのか」と不信感が募った。警察官が繁華街を練り歩き、街は閑散としていた。今回の逮捕でも「まだ不安は残る。早く安全な街に戻ったと胸を張って言いたい」
3日午前の県警の記者会見。北九州地区暴力団犯罪捜査課の国本正春課長は言い切った。「北九州が明るくなるよう、これからも(捜査に)力を入れ、工藤会を壊滅すべくやっていく」
■再び標章掲げる気には
田口容疑者らが逮捕された事件で重傷を負ったクラブ経営会社の男性役員(57)が朝日新聞の取材に応じた。
12年9月26日未明、仕事を終え自宅マンションの入り口にさしかかった瞬間だった。男に背後からぶつかられた。「殺すぞ」という声も聞いたような気がした。
「一体、なんなんだ」。いぶかしがってエレベーターに乗ると、尻から血が流れていることに気づいた。「刺されたのか」。恐怖心はなかった。妻が呼んだ救急車で病院に運ばれた。
「一連の標章関連の事件で狙われたのか」と考えたのは少したってからだった。店に貼っていた標章ははがした。
「私や店を敵視してやったのではなく、上から命じられたのだろう」と容疑者らに恨みは抱いていない、と言う。ただ、再び店に標章を掲げる気にはまだなれないでいる。「このまま治安が保たれれば」。そう願っている。