「MUTEKIに次ぐ新商品も開発中です」と話すきねや足袋、3代目社長の中沢貴之さん=埼玉県行田市
「足袋のまち」として栄えた埼玉県行田市。ここにある創業67年の足袋メーカー「きねや足袋」が売り出しているのが、ランニング足袋「MUTEKI」です。人気作家池井戸潤さんの最新刊に登場する架空の足袋メーカー「こはぜ屋」がつくったランニングシューズ「陸王」と重なります。職人技をいかしたものづくりで生き残ろうとする、経営者の挑戦。その現実は――。
忍(おし)城の城下町で、かつて「足袋のまち」として栄えた埼玉県行田市。ここを舞台にした池井戸潤の小説が「陸王」(集英社)だ。今夏に発売され、中小企業の奮闘が「『下町ロケット』をほうふつとさせる」と評判を呼び、電子版を含む発行部数は25万部にのぼる。
「足袋屋がランニングシューズをつくる。そんなストーリーはあり得ますか?」。池井戸が、行田の足袋メーカー「きねや足袋」を訪れたのは2012年の秋。市民ランナーの編集者が5本指のシューズを愛用していると聞き、「足袋みたい。足袋屋がランニングシューズをつくる話を書いたら面白いかも」。こう思い立っての取材だった。
応対した社長の中沢貴之(39)は驚いた。当時、地下足袋を改良した「MUTEKI」をひそかに開発中だったからだ。「怖いくらいの偶然でした」
MUTEKIは2本指の「ランニング足袋」。ナイロン製の地下足袋に厚さ5ミリの天然ゴムのソール(靴底)を手縫いでつけ、裸足感覚で路面を踏みしめる。つま先のカーブを立体的にするなどの難しい作業を可能にしたのは、伝統に裏打ちされた職人の手仕事だ。1足5千円(税別)だ。
行田で足袋の生産が始まったの…