幅10メートルの田んぼの稲刈りはコンバイン4往復で終わった。右奥の田んぼは亀裂が入り作付けできず、雑草が茂っていた=15日午後、熊本県阿蘇市狩尾、金子淳撮影
熊本地震で水田に段差ができるなどの被害が出た熊本県の阿蘇地域で、稲刈りがピークを迎えている。同地域では地割れや水の噴出などで作付け不能の田が阿蘇市を中心に計243ヘクタールにのぼり、コメや転作作物の収量は大幅に減る見込みだ。今年は稲の実りがよく、「植えていれば豊作だったのに」と生産者からため息も漏れる。
同市狩尾の田中幸博さん(55)は台風16号通過前の15日夕、コンバインで黄金色の稲を刈り終えた。約0・1ヘクタール分だけで所要時間は約30分。ここに所有する1・2ヘクタールの田のうち1・1ヘクタールは亀裂で何も植えられなかった。4月16日の本震前は田植えを待つばかりだった田に、今は草が茂る。
「きれいに育った苗を300箱分以上捨てた時は、悔しかった」と田中さん。別の場所に何とか被災を免れた田があるが、「毎年5日かかる稲刈りが今年は3日で終わった。出荷できるだけの収穫になるか分からない」と話す。
付近には1メートル以上の段差ができた田もある。阿蘇市の狩尾一区営農組合長の中川利美さん(68)によると、28軒の組合員の計70ヘクタールの田のうち約30ヘクタールは耕作をあきらめた。「皆、植えたいのに植えれんつらい思いをした。今年は共済の補償も出るが、農家として自分が作った作物を売れないのが一番きつい。特に今年の出来のいい稲を見ると二重に残念な気持ちになる」。中川さんはそう言って肩を落とした。
阿蘇市や南阿蘇村、西原村を管内に持つJA阿蘇によると、大豆やソバ、飼料作物などに転作もできない作付け不能の田は計243ヘクタール。そのうち阿蘇市が約184ヘクタールを占める。市全体で主食用米の作付けをした田は7月末時点の集計で昨年より約300ヘクタール減っていた。同JAが扱うコメの収量は昨年の約18万俵から15万俵に減る見通しだ。
市は来年の田植えに間に合うように土地の復旧をめざすが、市農政課は「地割れの大きな所は2~3年かかる」と厳しい見方を示す。(後藤たづ子)