腰に巻かれた端末からタブレットに送られたデータを見る早稲田イーライフ田園調布の古村薫平さん(左)とGEヘルスケア・ジャパンの太田裕一さん=東京都大田区田園調布、迫和義撮影
発明王エジソンらが創業したゼネラル・エレクトリック。売上高が10兆円を超える世界的な企業ですが、最近は、顧客に寄り添うような「下から目線」の働き方を徹底し始めました。そのワケとは?
「AYUMI EYE(アユミアイ)の時間です!」。大橋和夫さん(81)がセンサー搭載の端末を腰に巻き10メートルほど歩くと、歩行時の体のデータが介護職員のタブレット端末に転送され、専用アプリで分析される――。約2分で、評価点数や歩行を改善するためのトレーニングメニューなどが表示された。
東京都大田区のデイサービス「早稲田イーライフ田園調布」。高齢者の運動機能を維持・回復させるための運動プログラムを提供している介護予防型の施設だ。大橋さんは2年ほど前に脳梗塞(こうそく)になり、病院の紹介で通っている。「立って歩くときにふらふらしていましたが、よくなってきました」と話す。
歩行状態を評価するシステム「アユミアイ」を導入する前、評価測定にはストップウォッチ片手に20~30分。椅子に座ったり、立ったりするメニューも必要だった。介護職員の古村薫平さんは「時間の短縮で利用者との交流を深める余裕が生まれた」と喜ぶ。
アユミアイを考案したのはCTやMRIなどの医療機器を製造するGEヘルスケア・ジャパン(東京都日野市)。航空機エンジンや発電用タービンなどを手がける世界的な産業機器メーカー、ゼネラル・エレクトリック(GE)のグループ会社だ。GEは今、顧客の目線に立ったビジネスを強めている。その一例がアユミアイだ。
開発担当の太田裕一さん(31)は日本の大手メーカーから転職した技術者。センサーで歩行状態を測って健康に役立てる。そんな商談を、施設運営の「早稲田エルダリーヘルス事業団」に昨年2月、持ちかけた。「コンセプトはいいが、どう使ったらいいのかわからない」。アユミアイを改良する必要があった。
役に立ったのがGE流の開発手法である「ファストワークス」。いわば、「俊敏な対応」だ。試作品や限られた機能を備えた段階でも、製品やサービスをいち早く市場に投入し、顧客の意見を聞きながら完成度を高める方法だ。
太田さんはアユミアイを施設で使ってもらい、聞き取りを重ねた。わかったことが、お年寄りが運動の目的を理解して運動する時は、そうでない時に比べてやる気が向上し、持続性も高まることだった。そして、お年寄りもその家族も運動の成果が実感できると、喜びを感じるということだった。成果の「見える化」が開発目標となった。
アユミアイでは歩く状態を「前に進む力」「バランス」「リズム」の三つから分析し、百点満点で点数表示。例えば、前に進む力を高めるには、目線を上げて姿勢を改善する必要がある。そのために胸の筋肉を鍛える「チェストプレス」が役立つ。運動の目的と内容を並べて表示させ、何のために、どんな運動をするのかが一目瞭然となった。
早稲田エルダリーの事業開発グループ・グループリーダーの小林剛さんは「素人目線でカスタマイズしてくれて使いやすくなった」と評価。太田さんは「施設のみんなといっしょにつくることで、アユミアイの満足度は高いものになった」と話す。現場で改良を重ねて素早く完成度を高める。重厚長大産業に「俊敏さ」が加わった。