フィリピンのドゥテルテ大統領の「ヒトラー発言」を巡り、これを報じたロイター通信のフィリピン人記者2人がソーシャルメディアなどで中傷や非難を浴び、身の危険を感じて退避する事態になっている。記者の連合組織であるフィリピンジャーナリスト連合(NUJP)は3日、「報道は犯罪ではない」との声明を出し、攻撃を批判した。
記事は、ドゥテルテ氏が自らをヒトラーになぞらえ、「麻薬中毒者を私も喜んで殺したい」と発言した内容。ロイター通信の配信後、ソーシャルメディアで記者2人の実名を挙げ、「悪意があり、無責任な記者こそ民主主義の敵だ」「法の全権を用いて罰するべきだ」といった匿名の書き込みが相次いだ。
朝日新聞の取材に応じた記者によると、顔写真も公開され、「薬物使用者だ」といったデマも流れた。フィリピンは記者の殺害事件が多く、ドゥテルテ政権下では「麻薬犯罪者は殺害してもよい」という風潮も広がっている。このため2人は自宅を離れ、1人はフェイスブックのページを閉鎖したという。
大統領の「ヒトラー発言」は、多数の記者がいる記者会見の場で飛び出した。質問したわけでもない2人がなぜ批判の的になったのかは不明だ。ただドゥテルテ氏が9月にオバマ米大統領に対する暴言を吐くきっかけとなった質問をしたのは、別のロイター記者だった。
ドゥテルテ氏は過去に「メディアを攻撃するな」と支援者らに要請したことがある。NUJPは声明で「大統領の声が聞こえていない者がいる」と批判した。批判を受けた記者は、朝日新聞の取材に対して「攻撃をやめるよう大統領が再度発言することを願う」と話した。(マニラ=鈴木暁子)