ベンチャー企業が集う「FINO LAB」の共用作業スペース。奥は会議室=東京都千代田区、越田省吾撮影
東京の丸の内や大手町の大地主、三菱地所がベンチャーを集め、アイデアを磨き合う出会いの場づくりに力を入れています。JR東京駅前に日本一高いビルの建設も計画し、品川や渋谷などほかの街との顧客の奪い合いも激しくなっているからです。組織の壁を越えた個人どうしも交流できる「三菱村」を模索しています。
入り口のセンサーに指の指紋をあてて自動ドアをくぐると、10人掛け程度の大きなテーブルが並ぶ。会議室はガラス張りで、中の様子は丸見えだ。
三菱地所が2月、所有する東京銀行協会ビルの14階、約900平方メートルを改装して開設した「FINO(フィノ) LAB(ラボ)」。金融と情報技術を組み合わせた「フィンテック」にかかわるベンチャー35社を誘致した。
入居企業の社員数は1~40人。企業の案内表示はなく、軽装姿も目立つ。5社が個室を持つほかは仕切りのない共有スペースで働く。応接室や会議室もみんなで使う。皇居が見える休憩所や80人入れるイベントルームもある。広さで家賃が決まるのではなく、社員数に応じて利用料を払う。1人当たり月2万円だ。
入り口のセンサーは入居企業の「リキッド」(久田康弘社長)製。同社開発の指紋認証だけで現金が引き出せる現金自動出入機(ATM)はイオン銀行に採用され、4月から一部店舗で実証実験が始まっている。指紋だけで決済できる新開発のレジは今月、首都圏の飲食店約150店に納入された。1年後には5千店まで広げる計画だ。
久田氏が仲間3人と東京・恵比寿で2013年に創業したリキッドは、日本のフィンテック業界では有望株。「日本の中心にロンドン・シティーのようなフィンテックがにぎわう場をつくりたい。ぜひ来てほしい」。三菱地所の営業マンが小さなオフィスを訪ね、移転を促したのは1年ほど前だった。
今では社員数は40人に。入居した個室も3回増床した。轟木博信・経営管理部長(31)は「大手行や取引先が徒歩圏内。海外の商談相手も呼び込みやすい」。別のフィンテック企業とも交流が深まり、新規事業で手を組む構想も膨らんでいる。
三菱地所は、大企業が集まる東京・丸の内周辺のオフィス街に、成長が期待できるベンチャーを呼び込み、新風を吹き込もうとしているのだ。
フィノラボが入居するビルから…