漱石が書いた三角関係の図=漱石全集第13巻(岩波書店、1966年)より
9日に没後100年を迎えた夏目漱石(1867~1916)の作品のメッセージを改めて考えようと、津市の映画評論家、吉村英夫さん(76)が「愛の不等辺三角形 漱石小説論」(大月書店)を出版した。漱石の作品で描かれている男女の三角関係から物語を読み解いている。
特集:夏目漱石「吾輩は猫である」
「三四郎」「こころ」「坊っちゃん」など12作品を取り上げている。作品内で愛し、憎しみ合う男女関係の変化を、三辺の長さが異なる「不等辺三角形」に例えて分析した。
前期三部作の1作目「三四郎」では、おくてな主人公が自由奔放な美禰子(みねこ)に思いを寄せるが、つかず離れずの関係が続き、そこに別の男性も加わって三角関係になる。三四郎は、自分との距離が縮まったかと思えば、ほかの男性とも親しげに話す美禰子の態度に混乱する。吉村さんは、距離が変わり続ける美禰子―主人公と美禰子―別の男性の関係は「不等辺三角形」とみた。
続く「それから」や「門」でも、ほかの男性の妻や恋人を奪う主人公などが登場する。「不安定な関係からくる変化こそ、読者の興味をかき立てる要素だと漱石はよく知っていた」と吉村さん。
今回の本では、漱石が1906年に書いた三角関係についてのメモも紹介している。メモには、三角の相関図とともに「三ノ人物ヲ取ツテ(中略)無限ノ波瀾(はらん)ヲ生ズ」とある。吉村さんは、このメモと同じ年に書かれた「坊っちゃん」が三角関係を取り入れるきっかけとなった作品とみる。坊っちゃんではマドンナと赤シャツ、うらなりの三角関係が描かれている。
「漱石は『三角関係=波乱』で…