栃ノ心(右)の下手投げに屈した稀勢の里。初優勝への期待は一気にしぼんだ=長沢幹城撮影
負ける、と記者は直感した。
どすこいタイムズ
横綱鶴竜を1差で追う九州場所13日目(11月25日)の栃ノ心戦。時間になり、稀勢の里がほおをたたいて気合を入れる。直後の表情に違和感があった。視線が泳ぎ、鋭さもない。3連続で横綱を破った前日までとは違った。
迷ったようなフワッとした立ち合い。けんか四つで差し負け、ぶん投げられた。伏線はあった。先場所は変化の末に敗れ、それを警戒し過ぎたのだ。鶴竜の千秋楽の相手は15勝27敗と苦手の日馬富士。栃ノ心戦を落とさなければ、2敗同士の優勝決定戦の可能性も十分あった。栃ノ心とは過去16勝7敗と優位に立っていただけに、ファンはなおのこと無念だったろう。
何度も優勝争いに絡んだ今年も賜杯(しはい)に届かなかった。取りこぼせない一番をあっさり落とし、終盤の勝負どころで勝てなかった。横綱審議委員会の守屋秀繁委員長(千葉大名誉教授)の言葉が象徴的だ。「強い時は本当に強いのに平幕に簡単に負ける。理解に苦しむ不思議な大関だと思う」
大関昇進から約5年。13勝、12勝を初めて2度ずつ挙げた今年は綱とりの最大の好機だった。白鵬の力に陰りが見え、16年ぶりに5人の優勝者が出た混戦の1年をも生かせなかった。
地力は十分だ。新入幕の石浦を…