児童相談所の棚に並ぶ専門書。ワーカーたちは対人関係、子どもの発達、性教育、虐待所見、司法手続きなどさまざまなことを頭に入れておかなくてはいけない
■第3章「親と向き合う」(7)
目の前の母親が泣きながら語りはじめた。「私が悪いんです。すみません。私がこんなだから……」
児童相談所(児相)の面接室。ワーカー(児童福祉司)のケイコは、10日ほど前に一時保護した小学生の母親と向かい合っていた。
連載「児相の現場から」
暴力を振るったのは、父親。息子の顔面を強く殴ることがあり、1回目のあざが発覚してから家庭訪問を続けていた。注意したのに再びあざができるほど激しく殴ったため、保護した。子どもは多動の傾向が強く、食べ物を手づかみで食べるなどじっとしていられない。
ケイコは母親に、母親自身の成育歴や子育ての様子、父親との関係を聞いた。母親自身も対人関係に苦労し、不登校になったことがあるという。
「自分としては一生懸命相手をしているんですが……。私のせいです」。自分を責める母親の姿に、ケイコの心は痛んだ。自信のなさから、父親に頼り切っている様子も伝わってきた。
別の日に、父親と祖母にもそれぞれ面談した。父親は「悪さをして、人に迷惑をかけてもへらへらしていたから殴った」などと説明。殴ることはよくないとはわかっているが、衝動的に動く息子にどう対応していいかわからず、つい手が出てしまうようだ。「自分がしっかりしなくては」との思いも強いと感じた。父親自身、自分の父親から暴力を受けて育っていたこともわかった。
自らの行動が子どもへの虐待だと認識していない親も少なくない。一時保護した子どもが再び親元で暮らせるようにと、親自身に認識や行動を変えてもらうための取り組みも児童相談所は担っている。
ケイコは、父親に子どもへの対…