生徒たちに美しいおじぎの仕方を見せる出場者たち=日野中央高等特別支援学校
もうすぐ社会に出る18歳に、内面・外面の美を競うミスコン出場者が自己紹介やおじぎの仕方を伝授する。そんな授業が10日、軽度の知的障害がある生徒が通う横浜市立日野中央高等特別支援学校(港南区)で行われた。きっかけは、生徒たち手作りの「革製品」だった。
「大切なのは中身、自分に自信があるかです。初対面で緊張するときは、肩を一度回す。はい、やってみて」。ミリオレット・ジェニー・沙百合さん(27)率いる「ミス・ユニバースジャパン神奈川大会」決勝出場者5人につられ、同校3年生の約50人がぎこちなく肩を動かす。
立つ・歩く・おじぎの姿勢に、笑顔の見せ方。グループごとの自己紹介レッスンでは、出場者が「恥ずかしくても顔を合わせることは大事。顔を上げて」とアドバイスしたり、生徒が「大勢の前で話すとき緊張してしまう。どうしたらよいですか」と質問したり。
ミス・ユニバースは、美しさに加えて知性や人間性を問う世界的なミスコン大会。2016年の埼玉大会準グランプリで、現出場者たちを指導するジェニーさんらを先生に、春には卒業して社会へ出て行く生徒たちの自信になるよう、初めて企画された授業だ。
■ヒールカバー製作から交流
同校との縁は「ヒールカバー」がきっかけ。社交ダンスなどでハイヒールを履くときに床を傷めないよう、ピンヒールの先に巻き付ける革製品だ。ダンスをしている職員がいたことから、学校としては全国でも珍しく、同校の革工課で4年前から作り始めた。普通は1組300円ほどのところ、同校製は100円で、売り上げは当初の2倍に。それを知ったジェニーさんが昨年同校を訪れ、ミスコンのウォーキング用に注文し始めた。
ダンス用よりも細く、ときに高さ20センチにもなるヒールを履くミスコン出場者たち。カバーの中央部は細く、より柔らかい革を、というリクエストに応え、実習助手の加藤博夫さんらが新たに専用の抜き型を作成。11月には、埼玉などの出場者ら約20人が同校を訪れ、生徒たちと革小物を作る体験も行い、「いい製品を作ってもらっている。生徒たちと私たちなら、お互いにないものを教え合えるはず」(ジェニーさん)と、この授業につながった。
イタリア人の父をもつジェニーさんは、目や髪の色の違いからいじめを受け続け、自殺をしようと飛び降りた経験も持つという。授業では、レッスンのほかに、恩師らとの関わりの中で立ち直ってきたことを涙を見せながら話し、「今までいっぱい努力したから今の自分がある。みんなも、これからももっともっと努力してください」とエールを送った。
「製品を大切にしてくれる人から貴重な話を聞き、やりがいを感じた」と、授業でヒールカバーを作る坪和佳さん(3年)。「初めての人には緊張しがちですが、社会に出てからも今日のレッスンを生かしていきたい」と話していた。(木下こゆる)