捜査対象者の車両にGPS(全地球測位システム)端末を取り付ける捜査手法をめぐり、警察庁が都道府県警に出したマニュアルで、GPS捜査の存在を捜査書類に書かないよう指示していたことが分かった。東京地裁で公判中の窃盗事件で、裁判所がその部分を開示するよう検察側に命じ、明らかになった。弁護人は「適法性に問題があることを認識していた証拠だ」としている。
マニュアルは2006年6月に出された「移動追跡装置運用要領」。警察庁はGPS捜査を裁判所の令状なしでも実施できる任意捜査と位置づけ、具体的な運用方法を記していた。
明らかになったのは、その中の「保秘の徹底」の3項目。「捜査書類には、移動追跡装置の存在を推知させるような記載はしない」「被疑者の取り調べでは、移動追跡装置を用いたことを明らかにしない」「事件広報の際には、移動追跡装置を使って捜査したことを公にしない」とあった。
13年8月~14年6月に東京や兵庫などで起きた連続窃盗事件で逮捕・起訴された男性被告(48)の公判で、弁護人が検察側に開示を請求。当初はこの3項目が黒塗りの状態だったが、東京地裁(島田一裁判長)が昨年末に開示を命じた。
弁護人の坂根真也弁護士は「一切形に残さず、保秘と指示したことすら隠してきたのは非常に問題だ。適法性に問題がないと思うなら、堂々とやればいい」と指摘した。令状なしのGPS捜査については各地で違法性を問う裁判が起きており、大阪地裁は15年6月、「プライバシーを侵害するもので重大な違法」と一部の関係証拠を排除した。一方で任意捜査と認める司法判断もあり、最高裁が近く大阪の事件について初判断を示す。
警察庁は「捜査の具体的手法を知らせると犯罪を行おうとしている者に対抗措置を講じられる恐れがあるため、3項目を規定した。ただ、運用要領の内容については、最高裁などの判決もふまえ、適切に検討していきたい」としている。
■警察庁が移動追跡装置運用要領で示した「保秘の徹底」3項目
・捜査書類には、移動追跡装置の存在を推知させるような記載はしない
・被疑者の取り調べでは、移動追跡装置を用いたことを明らかにしない
・事件広報の際には、移動追跡装置を使用して捜査を実施したことを公にしない
■端末、捜査資料に「白色塊」
東京地裁で31日、この窃盗事件の公判があり、事件を担当した警視庁捜査3課の警察官が証人出廷した。
証言によると、捜査本部は男性を逮捕した後、男性の車からバッグを押収。その中に、男性が気付いて取り外したGPS端末を見つけた。これについて押収物の目録には「衣類等一式」と記載。検察官から細かく書くよう求められると、端末について「白色塊」などと書いたという。
捜査資料に端末と明記しなかった理由について、警察官は「運用要領に従った」と証言。「相手(容疑者)に伝える必要がないから」と説明した。
元検事の落合洋司弁護士は、GPS捜査について「きちんと事前事後の検証ができるよう捜査書類に書くべきだが、それすらしないのは手の内を明かしたくないだけでなく、公になれば違法になりうるとの認識があったと判断されても仕方がない。どこにいても位置情報を得られる手法の威力はすさまじく、検証に耐えうる制度化が必要だ。捜査なら何をやってもいいというなら法治国家とはいえない」と指摘する。(阿部峻介)