「天の魚」の一節を演じる江良潤さん=東京都渋谷区、北野隆一撮影
水俣病の悲惨さと自然の尊さを描く一人芝居「天の魚(いお)」を、俳優の江良潤(えらじゅん)さん(66)が10日から初めて上演する。作家の石牟礼道子さん(89)の代表作「苦海浄土(くがいじょうど)」を原作に、俳優の故・砂田明さんが556回演じたライフワーク。水俣病の公式確認から60年の昨年、「砂田さんの志を後世に伝えたい」と江良さんが引き継いだ。
特集:水俣病 公式確認から60年
砂田さんは1972年に熊本県水俣市に移り住み、93年に65歳で亡くなった。水俣病患者支援活動の傍ら、79~92年に各地で上演した「天の魚」では、頭巾に仮面をつけて老漁師に扮し、胎児性水俣病の孫ら患者への厳しい差別と、海の恵みに支えられたかつての暮らしを語った。2006年から数年間、別の俳優が演じたこともある。
江良さんは舞台劇やテレビドラマに出演。東日本大震災の福島第一原発事故をきっかけに、「環境問題に演劇人としてかかわれないか」と考えた。旧知の写真家、宮本成美(しげみ)さん(69)から「公害を題材に、美しい言葉で人間を描く石牟礼さんの文学世界を舞台で表現してほしい」と頼まれ、引き受けた。宮本さんは水俣で患者らの撮影を続け、砂田さんの公演を当初から支えてきた。
江良さんは昨年秋に水俣を訪れ…