文芸誌と小説投稿サイトを同時に始めた幻冬舎社長の見城徹=東京都渋谷区の同社
出版大手の幻冬舎は、方向性が一見まったく異なる二つの事業を、同じ昨年10月27日に立ち上げた。一つは文芸小説の投稿サイト「ピクシブ文芸」。もう一つは初めて社名を冠した月刊文芸誌「小説幻冬」だ。
電子に行く才能、取りこぼさない 幻冬舎・見城徹社長
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ピクシブ文芸は、ネットベンチャーのピクシブと組んで始めた。ピクシブは2007年にイラスト投稿サイトを始め、その後、マンガやライトノベルに幅を広げた。約2100万人の会員がおり、投稿作品は会員が批評し合い、人気ランキングも表示される。ピクシブに投稿されたマンガには、出版されてベストセラーになったものもある。
「でも彼らは文芸は弱い。そこをウチと一緒にやろう」と幻冬舎の担当者、設楽悠介(37)。ピクシブ文芸への投稿作品は、ミステリーやSF、エッセーなど4カ月で9500作を数えた。さらに「ピクシブ文芸大賞」を設け、大賞に選ばれた作品は幻冬舎で書籍化し、テレビ朝日が映像化する。従来の文芸誌なら新人賞の応募は数百作が相場だが、ピクシブ文芸には応募締め切りまでに数千作品が寄せられそうだという。
幻冬舎社長の見城徹(66)は、一昔前なら文芸の門をたたいた若者がアニメやゲームの世界に流れるのを歯がゆく思っていた。「文芸の世界に来たはずの才能があっちに流れている。それを取りこぼしてはいけない」
村上龍、山田詠美……。見城がこれまで関わってきた作家の初期代表作はいずれも、発表当時は「この世あらざるもの」だった。編集者の「目利き」でなく、ネット投稿を通じて「まったく異質な『この世あらざるもの』を見たい。ピクシブ文芸からはそういうものが出てくる可能性がある」。
一方、「小説幻冬」では、「出版社としてオーソドックスなものは、きっちりとやる」(見城)と、出版不況のなか、あえて時流にあらがった。著名作家の作品をそろえた創刊号は売れ行きがよく、文芸誌には珍しく増刷したという。
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