２０２０年東京五輪のゴルフ会場、霞ケ関カンツリー倶楽部が正会員を男性に限る規則の見直しを迫られた。五輪憲章の男女平等の原則から当然の要求に思えるが、すんなり事は運ばない。なぜ？

特集：2020東京オリンピック

霞ケ関が五輪会場に決まったのは１２年。日本ゴルフ協会（ＪＧＡ）を中心に構成する「五輪ゴルフ対策本部」で約５０の候補から白羽の矢が立った。政財界に多くの会員を持つ名門コースだ。永田圭司本部長は「国際ゴルフ連盟（ＩＧＦ）はプライベートクラブに受けてもらえるか心配した。女性（がいない）会員問題も指摘があった。かなわない場合、横浜カントリークラブを第２候補に挙げた」と当時を振り返る。

霞ケ関は貸し出しを決め、クラブの定款や細則を提出。当時の招致委は正会員が男性に限られる細則部分は英訳の資料に記さなかった。ＩＧＦが承認して正式に会場となり、国際オリンピック委員会（ＩＯＣ）も視察したが、霞ケ関の木村希一理事長は「会員資格の話は全くなかった」と言う。その後、十数億円かけ自らコース改修するなど受け入れ準備を進めてきた。

ではなぜ、問題になったのか。

今年１月、小池百合子・東京都知事が「女性が正会員になれないのは非常に違和感を感じる」と発言。これが海外で報じられると、会場として認めたはずのＩＯＣも「女性も男性正会員と同じ扱いになるよう、細則変更の時期の確約を」と霞ケ関に求めてきた。

ただ、小金井カントリー倶楽部（東京）、広野ゴルフ倶楽部（兵庫）など正会員が男性だけの名門は少なくない。霞ケ関は女性会員を完全に拒んできたわけではなく、日曜を除く日にプレーできる「週日会員」などに２１２人の女性がいる。女性だけの競技会もある。ゴルフ解説者の武藤一彦さん（７７）は「日本のゴルフクラブも財界人らがお金を出し合い、英国のように『メンズクラブ』として発足した。その後、興味を持った奥さんがプレーするなど女性にも開かれた。差別的な意図はなく、伝統を重んじるクラブほど『どうこう言われる筋合いはない』と思うのでは」と言う。

正会員の平均年齢は約６９歳。ＪＧＡの山中博史専務理事は「（コースを）自分の子どものように思う方もいる。いたたまれない気持ちで、（要求を）受ける必要はないという人もいるのでは」とみる。昨年のリオデジャネイロ五輪では当初、既存のプライベートクラブでの開催を目指したが会員に反対され、新たにパブリックコースを造った。昨年、最古のクラブ、ミュアフィールド・リンクス（英）が女性会員を認めない決断を改めて下し、全英オープンの会場から外された例もある。ノンフィクション作家の長田渚左さんは「プライベートクラブが男性のみの正会員でやるなら、それはそれでいい。ただ、五輪憲章に合わないのだから、五輪は合うところでやればいい。日本にはたくさんゴルフ場があり、無理にどうして（霞ケ関で）という気がする」。

ＩＯＣのコーツ副会長は２１日、「我々は明確に男女平等をうたっている。（東京五輪までは）まだ３年半もある」と会場変更の可能性を示唆。コスト削減のためバスケットボールなどの会場変更に苦労した組織委の森喜朗会長は「うかつに場所をかえるなんてことを口がさけても言えない」と規則の改正を期待しつつ推移を見守る。

霞ケ関では１９日に初めて会員向けの説明会を開いた。木村理事長は「会員の理解を得るのが第一で、理事会としてどういう意見があるのか集約する」と言い、今月末の総会などでも議論を続け、結論を導く方針だ。（森田博志）