手塚治虫文化賞の選考委員になった作家の桜庭一樹さん=山本和生撮影
マンガ文化に大きな足跡を残した手塚治虫の業績を記念する第21回手塚治虫文化賞(朝日新聞社主催)の「マンガ大賞」候補8作が決まった。1997年に始まり今年で20周年。直木賞作家で大のマンガファンでもある桜庭一樹さんが、今年から社外選考委員に加わった。マンガへの愛や自作との関わりについて語ってもらった。
小説の賞の選考委員をしたことはありますがマンガは初めてで、オファーにはびっくりしました。普段からよくマンガを読んでいますが、これからは堂々と「これも仕事」と読めるのがいいなと思い、お引き受けしました。
マンガとの出会いは小学生の時。友だちが教室に持ってくる『あさきゆめみし』『ガラスの仮面』『王家の紋章』などを借りて読みました。巻数が途中で飛んだり順番通りじゃなかったりしても、構わず夢中で楽しんでいましたね。
中学2年の時、塾をサボって本屋でたまたま立ち読みしたのが雑誌「ぶ~け」(集英社、2000年休刊)でした。吉野朔実先生の『少年は荒野をめざす』の第1回が載っていて、その独特の“文学の薫り”に衝撃を受けました。
「ぶ~け」には清原なつの先生や水樹和佳子先生といった深いテーマを描く作家が多く、背伸びしてそれらを読み、いろいろな作品に出会いました。文学的でスケールが大きく、その中に少女らしいセンチメンタルな世界が薫る。そんなマンガが好みでした。
女の子は、少女マンガで人生の一歩先を予習します。付き合ったこともないのに恋愛マンガにときめき、荒れる反抗期を経験し、受験の苦しみも知ります。10代ですから実体験のように刷り込まれることもある。影響は大人になっても大きいですね。マンガ家のお姉さんたちは、尊敬する人生の先輩です。
小説を書く時は、そのテーマに合う小説とマンガと映画のDVDをドカッと目の前に積んで取りかかります。『赤朽葉家の伝説』は祖母・母・娘の3代記ですが、暴走族から少女マンガ家になった母は、高口里純先生の『花のあすか組!』みたいな女の子が大人になって『あすか組!』みたいなマンガを描いたら、というイメージでした。
マンガも小説もテレビ番組も、自分で選ぶと同じようなものばかりになって飽きてしまう。マンガに詳しい書店員の友だちにお薦めを教えてもらっていましたが、賞の選考でも思いがけない新鮮な出会いがあるのではと楽しみにしています。
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さくらば・かずき 1971年生まれ。鳥取県出身。2008年に『私の男』で直木賞。ほかに『赤朽葉家の伝説』『荒野』『GOSICK―ゴシック―』シリーズなど。
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■「マンガ大賞」候補に8作品
「マンガ大賞」は昨年刊行された単行本(シリーズ作品も含む)が対象。社外選考委員の投票による上位8作と、専門家や書店など関係者の推薦が最も多かった『ゴールデンカムイ』を合わせたが、同作は委員投票でも上位だった。候補は次の通り。(敬称略、作品名は50音順)
『クジラの子らは砂上に歌う』梅田阿比、秋田書店▽『ゴールデンカムイ』野田サトル、集英社▽『SAD GiRL』高浜寛、リイド社▽『昭和元禄落語心中』雲田はるこ、講談社▽『トクサツガガガ』丹羽庭、小学館▽『ど根性ガエルの娘』大月悠祐子、白泉社▽『花に染む』くらもちふさこ、集英社▽『レインマン』星野之宣、小学館。
社外選考委員は、杏(俳優)、桜庭一樹(小説家)、里中満智子(マンガ家)、中条省平(学習院大学フランス語圏文化学科教授)、中野晴行(まんが編集者)、南信長(マンガ解説者)、みなもと太郎(漫画家・マンガ研究家)、ヤマダトモコ(マンガ研究者)の各氏。
「マンガ大賞」のほか「新生賞」「短編賞」を選考委員の合議で決める。結果は4月下旬ごろに紙面で発表する予定。(小原篤)