高校最後の打席になった九回表、安来の原田将維君は胸に手を当て、ゆっくりと深呼吸した=島根県立浜山
(19日、高校野球島根大会 浜田4―0安来)
地方大会をライブ中継中! 「バーチャル高校野球」で過去最多700試合
夏の甲子園、歴代最高の試合は? 投票ベストゲーム
地方大会の熱中症対策呼びかけ 朝日新聞社と日本高野連
打席に向かう安来の2番原田将維(まさゆき)君(3年)は、そっと胸に手を当てて、心臓の鼓動を確かめる。よし、普段通り。深呼吸してから心の中でつぶやく。「大丈夫、全部いつも通りだ」。落ち着かせるために必ず行うルーチンだ。
繊細なしぐさを見せる原田君に、チームメートが付けた愛称はしかし、チーム一熱い男「チャッカマン」。
「絶対打てる!」「ここ守ろう!」。練習だろうが試合だろうが、誰よりも大きく声を張り上げる。チームの士気を高め、やる気に火を付けるという意味で、1年の時から、そう呼ばれるようになった。
ポジションは左翼手。試合では、守備が終わると全力疾走でベンチに戻る。原田君が円陣の中心になってチームを盛り上げ、最後の締めに「チャッカ!」と叫ぶ。チームメートは「おお!」と応える。昨夏新チームが始動してから「思い付きで」言ってみたら定着したという。今試合でも毎回、原田君の声がグラウンドに響いた。
主将の飯橋(はんのえ)祐太君(3年)は「チーム一のムードメーカー」と語る。
「チャッカマン」と呼ばれるのは、自身の弱さを一つ克服した証しだったのかもしれない。
「昔からすぐ緊張してしまうタイプでした」。ここぞという場面で力を発揮できず悩んだ。解決策を模索する中、毎日の習慣から変えていこうとトイレ掃除を始める。昨冬から毎日練習後、学校のグラウンドのトイレを掃除している。
トイレ掃除の意義について「何でも良いから、毎日小さな努力を積み重ねることで、勝負どころで自分自身を信頼できる」と説明する。ムードメーカーの熱い努力は、少しずつ、成績にも表れてきた。
新チームでは控えに甘んじることもあったが、今春にかけて急成長し、夏を前に上位打線に定着した。
九回表、4点を追うチームの窮地に打席が回ってきた。胸の拍動はいつもと同じ。それから深呼吸。
「絶対打ってやる」
思いを込めて振り抜いたバットは、最後に空を切った。自分自身の弱さと正面から向き合いながら、チームに「着火」し続けた。「全力を出し切った。あとは後輩に託します」。最後まで情熱的に繊細に、「チャッカマン」の夏が終わった。(浪間新太)