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秋はE判定、短期決戦で志望先に合格 都立国立高の底力

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生物の教科書やプリントを見ながら、班ごとに議論して課題を進める1年生=東京都国立市東4丁目


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国立高校(東京都国立市)は昨年日比谷高校に5人抜かれたものの、ここ数年、国公立大合格者数で都立高トップの実績を続けてきた。


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1980年夏の甲子園出場の歴史があり、部活は今も盛んだ。約1万人を集客し「日本一の文化祭」ともいわれる9月の国高祭。3年生クラス対抗演劇は早朝から入場抽選の列ができ、そろいのTシャツで応援する保護者も。終わると生徒は気持ちを切り替えて、一気に受験へ向かう。


「4年前に赴任した時は短期決戦のパワーに驚きました」と、進路指導部主任の佐々木昭一教諭(53)。3年生11月の模試で合格率最低のE判定だった生徒が、年明けには志望の国公立大に見事合格していく。もう一つ驚いたのは、支えるベテラン教師陣。平均年齢51歳。ベテランとともに教官室で授業内容の議論に参加するのは新鮮だった。校長が「いい教育には経験豊富で質のいい授業のできる教員が欠かせない」とアンテナを高くして集めた結果という。


大学の先を見据えた底力を育てる授業も始めた。


昨年、生徒の能動的な取り組みを重視するアクティブラーニング型の「生物」を始めた。評判を聞き、年間200人以上が見学に訪れる。


1年生の授業では冒頭、4人1組の班を作った。配布されたプリントには、分野名と10問程度の問題、何を理解する目的なのか、などが書かれている。あとは生徒同士、資料を手に班で議論して問題を解いていく。教師は巡回して助言するだけだ。生徒の多くは「自分でしゃべって説明するから先生の授業より深まる」と言う。


定期試験もユニークだ。解答用紙はケイ線が引かれているだけ。教師に分かるように整理して解答を書き、記述問題は読みやすい内容と分量で答えをまとめる工夫が必要だ。1問ずつに解答の目安時間が示され、合計では50分の試験時間を超える。全部解かなくても「ここまではできる」という問題を選ぶ力もつけるため、全問正解なら100点を超える配点にしている。事前に前年の問題を渡し、毎回、新出問題に挑戦する訓練もする。


「高校教育は、大学に合格することが最終目的じゃない。社会に出て、仲間といかに自分の考えを深め、表現し、生きづらさを感じることなく他人を認めて食っていける人間に育てるかです」と生物担当の大野智久教諭(36)。ベテランの板山裕教諭(59)とコンビで新たな授業に挑戦する。授業を見学していた日本IBMやドコモの中堅幹部も「企業が求めているのはまさにそういう人材です」とうなずいた。


1月の大学入試センター試験。昨年に比べ「生物」の学校平均点が全国平均よりもさらに向上した。それだけではない。100点満点中70点未満の生徒はゼロ。確実に底上げができている。どの教科も2次試験前日まで個別指導するほか、「論述対策」を生徒同士で計画して行う姿もある。午後8時まで開いている自習室は、浪人生も利用し、教員に質問できる。


学校群制度で多摩を代表する進学校になった国立高。学区が撤廃され、高まる都心志向に危機感もある。岸田裕二校長(60)は「東京の田舎の公立の良さも知ってほしい」と話す。


■岸田校長「型破りな個性、認める土壌」


――今年から推薦入試を日比谷高とともに小論文重視に変更しました。


受験知識を詰め込んだ子じゃなく、自分の言葉で論理的に表現できる子が欲しい。内申点は正直、学校間格差がある。かといって、面接は3人に2人は生徒会長のいい子ばかりで差が見えにくい。小論文は、あえて対策しづらい出題にし、欲しい生徒への思いをこめています。


――授業時間が少ないそうですね。


日比谷高は1コマ45分で平日7コマ。西高は50分で週3回7コマでほかは6コマ。でも、うちは50分6コマ授業で残りは部活や行事に充てている。そのかわり、日比谷や西が任意講習をしている土曜に隔週で授業をしています。勉強以外のことで、高校時代をやり切った経験があるから受験で伸びる。


――およそ年収910万円未満の家庭で奨学支援金を受ける生徒は、都立全体では70%台、日比谷や西は30%台ですが、国立は。


約40%です。日比谷や西に比べれば平均的な家庭の子が進学してくる高校かもしれない。海外留学の希望者も非常に少ない。帰国後、上の学年に進めるのに、元の学年に戻って国高祭をやってから受験に向かう生徒もいる。昔ながらの都立高です。


――昨今話題のアクティブラーニング推進校でもありますが。


京大の特色入試も、東大の推薦入試も、答えが一つじゃない思考する問題に変わっている。若手教員がそういう授業を企画し、ベテランが助言すればもっといい教育になる。京大総長で霊長類学者の山極寿一さんや、「東ロボくん」で話題の数学者新井紀子さんも卒業生です。新井さんは高校まで数学が大嫌いだったそうですが、うちはストレートじゃなく、紆余(うよ)曲折を経て自分の道を究める人が多い。型破りも柔軟に認める土壌がある。懐の深い仲間や教師と刺激しあうよさを知って卒業してほしい。(聞き手・宮坂麻子)



きしだ・ゆうじ 1956年目黒区生まれ。東京理科大卒業後、都立高の数学教諭に。都教委、目黒高校校長などを経て2011年から現職。都高等学校進路指導協議会会長。



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