打撃練習の守備で、1球ごとに腰を落として構える呉の選手たち。バックネット裏から中村監督の厳しい視線が向けられていた
■選抜高校野球 話題校
呉の主将の新田が驚く。「街中が応援の横断幕だらけなんです」
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学校のある広島県呉市はかつての野球どころ。後のミスタータイガース、藤村富美男を擁して1934年夏の第20回大会を制した呉港中(現・呉港)が有名だ。だが、強豪校が居並ぶ広島市からは車で1時間たらず。戦後は有力選手が流出し、63年春に呉港が出場してから、甲子園は縁遠い場所となっていた。
街の活性化をかね、呉市が取り組んだのが野球振興。前身が女子生徒ばかりの家庭科専門校だった市立校に白羽の矢が立った。2007年、新たに野球部をつくり、監督に尾道商を選抜に3度導いた中村監督を招請。徐々に力をつけ、15年夏には広島大会初の決勝へ。そして今春、創部10年でついに念願をかなえた。
いま、学校には市民からスポーツ飲料などの差し入れが把握しきれないほど届く。近隣校の同窓会からも寄付金が集まるという。
甲子園への道は、守備で切り開いた。打撃練習では打つ側よりも守る側に緊迫感が漂う。内野手は投球に合わせ、せわしなく構える。打球を捕り損なえば、監督から怒声が飛ぶ。ノックには毎日、2時間近くを費やしてきた。
「強豪を倒すには無駄な点を与えないこと」が中村監督の信条。体格では広陵や広島新庄などの私立校に劣る。だから打力を求めず、守備を基礎からたたき込んできた。昨秋は広陵を破るなど県大会で3位になり、中国大会で準優勝。計11試合で本塁打はゼロだったが、1試合平均失策数は0・73。守り勝ってきた。
要は、エース左腕の池田だ。「選抜で一番球が遅いと思う」と自嘲するが、コーナーを突く制球力には自信がある。打たせてとる投球術は、「チームカラーと合っている」。投手なのに、選抜での目標は「8強以上。全試合、ノーエラーです」。旋風を巻き起こすつもりだ。(小俣勇貴)