第1回WBC決勝のキューバ戦で、最後の打者を三振にとりマウンドに駆け寄る里崎智也さん(左)=ロイター
■WBCを語ろう
まもなく開幕するワールド・ベースボール・クラシック(WBC)で、世界一奪還を目指す侍ジャパン(侍J)。プロ野球ロッテで捕手として2度の日本一に貢献し、第1回WBCでは正捕手として出場した野球解説者の里崎智也さん(40)が、侍Jの戦い方や展望について語りました。
特集:侍JxWBCの軌跡
特集:2017WBC
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優勝した06年大会は、決勝のキューバ戦は乱打戦になりましたけど、そのほかはそんなに打たれた記憶はないです。捕手として最少失点で抑えてきたというイメージはあります。
一番印象にあるのは準決勝の韓国戦です。1次2次リーグで2敗していたけど、言うほど悲壮感はなかったです。失点は少なかったから、点さえ取れれば勝てると思っていた。
WBCや日本シリーズなど、大舞台で打った印象があるためか、短期決戦に強かったとよく言われます。集中力ですね。ただ、僕の集中力は長くは続かないんです。はまれば強かったけど、はまらなければ全然でした。結果的にいいところではまったということです。
■選ばれない人に文句を言われる筋合いない
メンタルの持ち方で言えば、侍Jは、選ばれたから出られるわけであって、選ばれていない人に文句を言われる筋合いはないわけです。だから、俺に文句を言えるやつはいないという気持ちでやっていました。それくらいに思っているほうが楽でした。
僕は、自分が楽になるような考え方なんです。それがいいとか悪いとか、傲慢(ごうまん)だとか、そういうことは考えず、自分が楽になるようなマインドコントロール。周到な準備というより、どれだけリラックスして臨めるかを大事にしました。
■滑る使用球、プロなら対応
ボールの感覚は日本の公式球とは全然違いましたね。指先の先の先まで意識しないとミスが起こる。抜けそうになります。そこは、自分で感覚をつかんでいくしかない。
そもそもボールに合う、合わないじゃなくて、合わせるんです。プロだから。アジャストしていくのもプロでしょ、と思います。ボールが使いづらかったから結果が出ませんでした、ではプロではないし、日の丸をつける資格もない。
06年大会でいえば、大変だったけど、最後まで扱えないという選手はいなかったです。
■大谷不在の影響は
正捕手が不在の侍Jと言われているようですが、06年大会に出場したときの僕の実績だって、絶対的ではなかった。僕のほかに、捕手は谷繁さんと相川がいて、実績で見れば2人には全然及ばなかった。
けれど、王監督は捕手は里崎で行くと。なぜだかわからなかったけど。前年にロッテが快進撃で日本一になった印象からかなあ。ロッテが王監督が率いたソフトバンクを苦しめたイメージがあったのかなあ。
絶対的な捕手がいないなら、同じチームの投手・捕手で先発を組むという方法もあります。先発が楽天の則本だったら捕手は嶋。巨人の菅野だったら小林、といったように。日本ハム捕手の大野は、大谷はいなくなりましたが。
その大谷不在の影響ですが、マイナスとは考えていません。ダルビッシュや田中だっていないんです。大谷さえいれば、絶対に抑えられるわけでもありませんし。15年シーズンにトリプルスリーを記録した柳田だっていないわけですし、戦力ダウンをことさらに強調しても仕方ありません。
■勝ち上がるには、まずキューバ戦
まず初戦のキューバ戦です。キューバに負けたら、翌日のオーストラリア戦で「負けたら終わり」のプレッシャーがかかる。一方、キューバに勝てば、1次リーグは残りのオーストラリアか中国のどちらかに勝てばいいという余裕がうまれる。つまり、キューバに勝てば調整もしながら、2次リーグに進める。国際大会は先制点。初戦の先発はまず先制点を与えないことです。
打つ方では、この選手が打てば勝てるといった打者はいません。僕なら打ち勝つことを狙う打順にはしません。ここ一番でバントなど小技が必要な場面は絶対にあるからです。
06年大会では長距離打者だった多村でさえ、バントをしました。多村は04年シーズンは40本塁打、05年は31本塁打。今の侍Jなら主砲を期待される筒香並みの成績です。つまり、勝つためには筒香にバントさせることは必要だということです。そういう場面を踏まえた打順にするのがいいです。
■抑え投手は誰にする
正捕手と同様、抑え投手も不在と言われますが、抑え投手は決めておかないとダメでしょう。調子がいい投手を使うと言っても、短期決戦では調子の良しあしがわからないまま終わってしまう。抑え投手は決めておかないと、その投手までどう継投していくかも決められないわけですし。
ある程度の形を決めておいて、おかしかったら微調整するのがいい。最初に形を決めた上での微調整ならいいけど、全部が微調整だったら踏ん切りがつかないでしょう。
個人的には抑え投手は則本がいいと思います。抑えは困ったら変化球でカウントを取れる投手じゃないとダメです。力勝負では、国際試合では打たれます。
海外には150キロを投げる投手はざらにいます。困ったらストレート勝負というのは、僕は好きじゃない。2ボールからストレートで力勝負なんて怖くないんかな、と思う。変化球でストライクが取れて、三振が取れるのが条件です。そういう意味で則本。秋吉も変化球でストライクが取れるので候補ですね。
と、いろいろ言いましたが、結局は結果を出したもん勝ちです。侍Jに選ばれていない人が文句を言う筋合いはないわけで、雑音なんか気にせず、試合に合わせて調子を上げていくこと、気持ちを作っていくことが一番大事です。(聞き手・波戸健一)
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さとざき・ともや 1976年、徳島県鳴門市生まれ。鳴門工業高から帝京大に進み、98年にドラフト2巡目指名でロッテ入団。06年WBCに正捕手として出場。打率4割を超える活躍でベストナインに選ばれ、優勝に貢献する。10年、ロッテはシーズン3位ながら、CSを勝ち抜き日本一に。「下克上を見せる」という発言が話題になった。14年引退。右投げ右打ち。40歳。