米ニューヨークの「トランプタワー」に近い5番街で8日、「女性がいない日」のデモに加わった女性たち=AFP時事
女性が仕事や家事をしないと社会はどうなってしまうのか――。女性の社会への貢献ぶりを示そうと国際女性デーの8日、米国で女性が仕事を休んだり、家事を減らしたりする取り組みがあった。多くの教職員が休みを申請し、学校が休校になる地域も出た。
国際女性デー特集「Dear Girls」
首都ワシントン近郊のバージニア州アレクサンドリア市。市内最大で約1千人の児童を抱えるジョン・アダムズ小学校を8日午後に訪ねると校舎はひっそりと静まりかえっていた。校庭で保護者同伴の子どもが数人遊んでいるくらいだ。
同小PTA会長のアイミー・ダルトンさん(42)によると、同小では教師だけで50人が休みを取ったという。
「300人以上の教職員が休みを申請したため、8日は全校を休校とする」。アレクサンドリアの小学校から高校まで16の公立校を束ねる担当部局は「正常な学校運営ができず、安全も確保できない」として事前にこう発表していた。
教職員らが一斉に休暇を申請したのは、「女性がいない日」と銘打った運動に応えたためだ。この日一日、女性が仕事や家事をせず、買い物もしないことで女性の貢献を知らしめようというものだ。女性に対するあからさまな性的発言が批判されたトランプ大統領の就任式翌日に、大規模な抗議集会を実現させた女性権利団体が呼びかけた。
米国では女性の社会進出が比較的進んでいるとはいえ、仕事内容や待遇などで男性と比べて不利な扱いを受けることが多いとされる。抗議集会が各地で大きな反響を呼んだこともあり、米メディアなどによると、8日はノースカロライナ州やメリーランド州などの一部地域でも公立校が休校になった。
アイミーさん自身は金融業で働く。この日、同小が休校になり、小学2年の息子ヒューウェン君(8)と同小併設の幼稚園に通う娘ランリーアンちゃん(6)の世話のために在宅勤務にした。
アイミーさんは「女性や移民、有色人種といった社会的少数派を取り巻く環境が厳しさを増している。声を上げていくことが大切」と賛同する。周囲の親からは子どもの世話で仕事を休まなければいけないことへの不満もあったが、ほとんどが運動に参加した教職員を支持しているという。
仕事を早退してきた夫のトレビンさん(40)は「教師たちのメッセージは娘にとって重要なだけでなく、息子にとっても大事だ。女性の尊厳を学ぶべきなのは男性だから」と語った。
運動に参加したのは教職員にとどまらない。ニューヨーク在住でメディア関連の団体で働くミシェル・バドニックさん(39)も休みを取った。職場は10人が女性で男性は3人だが、幹部2人は男性と男性優位だ。バドニックさんは「自分だけでなくすべての女性のために、見落とされがちな女性の貢献ぶりを示したいと思った」と参加を決めた理由を話した。
バドニックさんは女性宰相のサッチャー首相の時代に英国で生まれ育ち、10年前に米国に来た。「この国では男性優位の考えが残っている」と見る。男性の力強さが強調され、男性優位の揺らぎへの抵抗も感じる。「米国で女性の権利が前進するのか、後退するのかが今問われている」(アレクサンドリア=鵜飼啓)