試合に敗れ、ベンチ前に整列する不来方の選手たち=24日、阪神甲子園球場、上田博志撮影
21世紀枠の不来方(こずかた、岩手)は24日、第3試合で静岡に3―12で敗れた。10人の選手はバットを振りぬき、笑顔を忘れなかった。そして甲子園を満喫した。
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一回表、2番の桜井琉太郎君(3年)がチーム初安打を放つ。「人生で忘れられない一打です」。2死となり、主将で4番の小比類巻圭汰(こひるいまきけいた)君(3年)が「自分のスイングができた」と強打。打球は中堅手の頭を越え、適時二塁打となり、球場がどよめいた。
試合後、小山(おやま)健人(けんと)監督(30)は「楽しく積極的にバットを振る目標を体現してくれた」と話した。
新チームが発足した昨年8月、小山監督は「やばいなあ」と思った。3年生13人が引退して部員は10人になった。不来方のある矢巾(やはば)町は盛岡市に隣接するベッドタウン。決して過疎のチームではなく、全校生徒も約800人。だが、たまたま部員が少なかった。
走者を置いたノックなど、実戦的な守備練習などをあきらめるしかなかった。そこで考えた。「できないことは、できない」。守備強化が難しいなら、打撃を強化しよう。「失点を減らせる守備より、打撃で得点を増やせば勝ちにつながる」と思うようにした。1人当たり100球の打撃練習が200球に増えたと考えることもできた。
選手たちは最初、半信半疑だった。レフトを守る菅原岳人君(3年)は「本当に大丈夫かなと思った」とふりかえる。だが、効果はたちまち表れた。昨秋の県大会は過去最高の準優勝。5試合で計26得点、うち3試合で2桁安打の打撃が原動力になった。
練習中、小山監督が声を荒らげることもめったにない。「常に競い合う大人数のチームに比べてモチベーションを保ちづらい。ほめて楽しくやるのが大事」と話す。
そして迎えた甲子園。チームは甲子園の常連校から9安打を記録。8回に安打を放った1番の鷹觜(たかのはし)零志君(2年)は「プレッシャーがかかる場面でも緊張しないから実力を出しやすい」と笑う。守備にはミスもあったが、小山監督は「アウトをとれたらラッキーと思っていた。楽しむ野球は出来た」と語った。
試合中、三塁コーチは先発メンバーが交代で務めた。九回、それまで一塁コーチを務めていた背番号10の斉藤圭汰君(2年)が代打で登場。外野に打ち上げたが、「みんなから『でかいのを狙え』と言われて張り切りました」と笑顔を忘れなかった。小比類巻君は「僕らの絆は強い。10人で戦えたことは誇りです」と力強く話した。(渡辺朔)