健康マージャンの参加者に声をかけて回る音弘志さん(右)=金沢市池田町一番丁
煙をくゆらせて夜通し賭ける。そんなマージャンのイメージを払拭(ふっしょく)する「賭けない、飲まない、吸わない」がモットーの「健康マージャン」が認知症予防を兼ねるとして、石川県金沢市の年配女性の間で人気上昇中だ。火付け役はNPO法人「金沢いきいき元気塾」代表の音弘志さん(72)だ。
「三色やわー! やられた!」「あたしもテンパイだったのよ」。2月下旬の平日の午後、金沢市池田町一番丁のマンション1階の70平方メートルほどの部屋に8台の雀卓(じゃんたく)が並ぶ。30人ほどが集まり、真剣な表情で牌(はい)を切る。マージャン用語が飛び交う店内は女性だけ。しかも全員、60歳以上だ。
金沢いきいき元気塾が月2回開く「女性デー」。参加者の一人で、金沢市横川2丁目の主婦中岡多瑞子さん(73)は3年ほど前までマージャンのルールを知らなかったという。「とにかく不健康で、怖いイメージ」があったが、「認知症予防にいい」と友達に誘われて渋々ついていったのがきっかけでのめり込んだ。「もう生きがいなのよ」と声を弾ませる。
障害児のための訪問教育を続ける「全国訪問教育親の会」の顧問を務める音さんが健康マージャンを知ったのは8年ほど前。障害者が店員として働く喫茶店を経営していた。若い頃からマージャンが好きで店に雀卓を置いていたが、客同士にお金のトラブルが起きるのにうんざりしたという。
その頃、東京で認知症予防などのため、禁酒禁煙の賭けないマージャンを広めようとする動きがあると知って、見学に行った。生き生きとマージャンをしているお年寄りの姿に心を揺さぶられたという。「孤立しがちな高齢者のためのいこいの場を作りたい」と、2009年に金沢いきいき元気塾を発足させ、健康マージャンを推進してきた。
初心者には最初は四つの牌だけで組み合わせを作るところから練習してもらい、徐々に牌を増やし、役などのルールを丹念に教えていく。年末年始以外は無休。スタッフには障害者や東日本大震災による福島県からの移住者らも名を連ねている。
会員数は右肩上がりで増え、150人に達した。最初は男性ばかりだったが、いまは6割を女性が占めている。特にここ1、2年は新しい会員の8割は女性だという。音さんによると、認知症予防のために何か新しいことをしようと考えたときに、マージャンをする夫の姿を思い出して試しに始めたという人が多い。
「昔から旦那がやってるのを見て楽しそうでねぇ」と話すのは最高齢で、金沢市元菊町の黒井美雪さん(91)。「男の遊び」だと思っていたが夫の他界後、83歳で健康マージャンを知った。ふと、いつも楽しそうにマージャンをしていた夫の姿が浮かんだ。試しに通ううちにどんどんはまり、現在は月24、25日足を運ぶという。腕前もめきめき上達した。「マージャン教室のない日は1日テレビを見てるだけでつまらない。マージャンのおかげで楽しみができた。ここが大好きなのよ」
今年1月には県教委や金沢市教委などの後援を受け、金沢いきいき元気塾の主管で「文部科学大臣賞 全日本健康麻将(マージャン)選手権」(全日本健康麻将協議会主催)の第1回を金沢で開催した。全国から100人の出場者が集まった。音さんは「健康マージャンは認知症予防やコミュニティー作りに役立つ。頭脳スポーツとして、将棋や囲碁に並ぶ文化にしたい」と話す。
問い合わせは金沢いきいき元気塾(076・255・0252)。(定塚遼)