デニス・ワイルダー元米国家安全保障会議(NSC)上級アジア部長
トランプ米大統領と習近平(シーチンピン)国家主席による初の米中首脳会談が終わった。テーマは外交や安全保障、経済、貿易、北朝鮮問題など多岐にわたり、期間中に米国のシリア攻撃も重なった。両首脳の人間関係の構築や対話の仕組みづくりへの評価がある一方、具体的な成果はなかったという厳しい見方もある。米中両国の識者に聞いた。
■元米国家安全保障会議(NSC)アジア上級部長 デニス・ワイルダー氏
米中首脳会談の最中に、米軍がシリア攻撃を断行したことは、トランプ大統領が何を意図したかはともかく、両首脳の心理的な力関係に大きな影響を与えた。
習近平主席の米中会談の目標は、トランプ大統領との人間関係の構築で、その所期の目標は達成した。経済や安全保障など、4分野での包括対話の建設的な枠組みをつくったことも成果だ。
ただ、中国の指導者は伝統的にサプライズを好まない。なのに今回は大きなサプライズが起き、中国側は腹立たしく思っているに違いない。習氏は今回はトランプ氏と対決を望まず、声明も出さずに攻撃を容認したような格好になった。北京の外交部に声明を出させたが、ソフトな内容だ。
一方のトランプ氏は、事態に迅速に、大胆に対応し、オバマ前大統領よりも自分は決断力がある指導者だと示したいと考えている。中国の国家主席に「米国のパワー」を見せつけたことに満足していると思う。
また、トランプ氏は「米国の『戦略的忍耐』は終わった」と印象づけた。米国はその軍事力行使を恐れず、中国が朝鮮半島での紛争を回避したいのであれば、中国こそ戦略を変えるべきだとのメッセージを送った。
米国の対北朝鮮制裁の目標は、北朝鮮の崩壊ではない。シリアの化学兵器攻撃と違い、北朝鮮は他国を攻撃しておらず、軍事攻撃は他国も巻き込むため、容易でない。
北朝鮮が核ミサイルを完全に開発するにはあと4年はかかる。その間に、開発させないよう中国が米国とともに努力すべきだというのが、大統領の強い思いだ。それに中国がどう応えるかに注目している。(聞き手・佐藤武嗣)