昨年7月3日、熊本地震後初めて熊本で開かれた本拠試合でスタジアムにはサポーターらの声援が響きわたった
「今は正直、サッカーを頑張ろうという気持ちにはなりにくい部分もある」
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熊本を襲った昨年4月14日の前震から1週間後。元日本代表でJ2熊本の巻誠一郎は傷ついた故郷を思い、報道陣の前で泣いた。
この1年を振り返って池谷友良社長は言う。「何かあったら、うちくらいはあっという間に倒れると感じた」。クラブは地震以降、5試合の延期を決断。本拠試合ができなければ、収入源の一つである入場料収入はない。年間の営業収益が約7億6千万円(2015年度)という地方クラブは苦しい経営を強いられた。熊本市内の本拠は救援物資の集積所となっていたため、昨年7月まで使用できず。その間は本拠試合を千葉や兵庫の代替地で開催するなどして乗り切った。
池谷社長は「もっとこのクラブを支えてくれるマンパワーがないと怖いなと思った」と危機感を強めた。地震を一つのきっかけに、よりクラブが地域に根付く「地域密着」に力を注ぐ。
県内の幼稚園や保育園を対象にサッカースクールのコーチが運動を教える取り組みや、スポーツ少年団のない地域への指導者派遣も計画。育成面では、今季からアカデミー寮を新設し、5年先にはトップチームの約半数をユース出身者が占めることも思い描く。営業では昨季約400社だったスポンサーを今季は地元企業を基盤に500社まで増やすことを目標とする。
クラブ設立から13年。池谷社長は「熊本は人のつながりでしかいろんなことが動かない地域」と語る。その上で「今やっていることが10年後、50年後につながり、『根が張った本当によいクラブになったね』と言われたい」。
本震から1年の16日、熊本はほぼ元通りになった本拠で「熊本地震復興支援マッチ」と銘打った試合に臨む。「全国への感謝と熊本は前向きにやっていることを発信したい」と池谷社長。被災地とともに歩むクラブがまた一歩前に進む。(堤之剛)