デザート・トリップで力強いパフォーマンスを披露したポール=Photo by Chris Pizzello/Invision/AP
ポール・マッカートニーの来日公演(朝日新聞社など主催)が25日に始まる。昨秋米国で開かれた大規模なロックフェスティバル出演が話題になったが、パフォーマンスに「衰え」の二文字はない。「今も音楽への情熱はわいてくるんだ」。ロックシーンの最前線でいまだに全力疾走している。
「(今年80歳を迎える)美術家のデビッド・ホックニーは友人だが、彼が以前『自分が絵を描いている時、25歳のときの気持ちに戻れる気がする』と言っていた。私も同じだ。音楽への情熱があるからこそ、エネルギーがわく。音楽を作りたくなるし、プレーしたくもなるんだ」
12日、ポールは朝日新聞などの電話インタビューに応じ、そう語った。
確かに昨年10月、米国・カリフォルニア南部の砂漠地帯で開かれたライブはエネルギーに満ちていた。
2週にわたって週末の3日間開かれたロックフェスティバル「デザート・トリップ」。出演者にはポールに加え、ボブ・ディラン、ザ・ローリング・ストーンズ、ニール・ヤング、ザ・フー、ロジャー・ウォーターズが名を連ねた。
1960年代半ば、それまで大衆娯楽だった「ロックンロール」が、フォークソングのプロテスト性の影響を受けるなどし、シリアスな自己表現もできる「ロック」へと変容、音楽産業のなかで大きな発展を遂げた。出演者は、ロックの黎明(れいめい)・発展期を支え、かつ今もシーンの最前線に君臨する大御所ばかりだった。
そんな中にあって、ポールは人出の最も多い2日目(8日と15日)のヘッドライナーを務めた。砂漠の激しい乾燥が影響したのか、記者が見た初日、決して声は絶好調とは言えなかった。けれどもビートルズ、ウイングス時代のナンバーを中心に30曲以上を力強く歌い上げ、会場は終始総立ちになった。
圧巻はヤングの飛び入りだ。ビートルズ後期のナンバーで、ホワイト・アルバム収録の「Why Don’t We Do It in the Road?」を2人が1本のマイクで楽しそうに熱唱するなど3曲で共演。このフェスのハイライトの一つを作った。「私は菜食主義者だし、1日1時間のエクササイズは欠かさないよ。でも何よりの体調管理は、友達やバンドメンバーと音楽を一緒にプレーすることなんだよ」
ロック黄金期の仲間たちとの共演は、大きな刺激になったに違いない。そんな熱気冷めやらぬ中、25日から、2年ぶりとなる来日公演が始まる。
「まだ日本のファンが見ていない演出もあるので、それを見てもらいたい。ぜひみんなと音楽のパーティーをやりたいな」
日本ツアーは、日本武道館公演で幕を開ける。2015年の来日時にもこの場所で公演し、そのときは「ビートルズの武道館公演以来49年ぶり」とあって大きな話題になった。
「ビートルズでやった時は、私たちのようなロックの人間が、武道の神聖な場所でプレーすることを快く思わない人たちがいた。でもそこで楽しくプレーできたことがきっかけで、その後多くのロックバンドがプレーできるようになったのかなと思っているよ」
現在、13年の「New」以来の新作アルバムを制作中だ。今年グラミー賞を受賞したアデルの「25」をプロデュースしたグレッグ・カースティンとタッグを組んでいるという。最新のシーンに目配りするあたり抜け目がない。
「(グレッグは)素晴らしいプロデューサーだ。作品はもう半分ぐらいはでき、今年中ぐらいに仕上がるとは思う。素晴らしいサウンドになるよ」
つきぬ創作意欲。衰えぬライブへの情熱……。74歳の彼の頭にまだ「ゴール」の言葉はないようだ。最後に「日本のショーが終わったらどうするのか?」と尋ねた時も、さらりとこう言ってのけた。
「コンサートはこれからも続けるよ。アルバムも完成させなきゃ」
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日本公演は、25日に日本武道館、27、29、30日に東京ドームで開かれる。25日と27日の公演は残席あり。問い合わせは、キョードー東京(0570・550・799)。