「ぐんまを暴け! カド戦記」第1話
井田ヒロトさんの新連載マンガ「ぐんまを暴け! カド戦記」が、朝日新聞群馬版で始まります。群馬に初めて赴任した若い新聞記者が、取材を通じて「群馬愛」に目覚めていく様子を、群馬の生活や文化、慣習などと併せ、井田さん独特の表現で描きます。実在する記者をモチーフにしていますが、登場人物、内容などはフィクションです。次回は5月25日に掲載します。
「お前はまだグンマを知らない」 ドラマ化に沸く地元
■新たな郷土愛の形描く
井田ヒロトさんは、2002年にデビューした高崎市在住の漫画家だ。13年から新潮社のウェブ漫画サイト「くらげバンチ」で連載している「お前はまだグンマを知らない」(おまグン)は、これまでの発行部数が65万部を超すヒット作品となっている。群馬県を中心に、北関東の栃木、茨城両県を絡め、それぞれの文化や風習などを大げさに、滑稽に描いたギャグ漫画だ。こうした手法は、新たな郷土愛の形としてテレビなどでも最近のはやりとなっている。
おまグンは、「チバ」から「グンマ」に転校してきた男子高校生が、群馬独自の文化や風習に戸惑いながら学園生活を送る。百人一首ではなく「上毛かるた」を学び、学校での号令は「起立・注目・礼」、風が強すぎて自転車が進まない――など、「ヨソ者」にはわからない群馬ならではの「あるあるネタ」が毎回登場し、一方で「トチギ」「イバラキ」と常に臨戦態勢という設定だ。
新潮社によると、これまでに発行された7巻までの発行累計部数の65万部超のうち、25%が県内で販売されたといい、人口比率に比べても県内の販売率が高い。くらげバンチ編集長の折田安彦さんは「現在発行されるマンガは大量で、よほどのフック(ひっかかるもの)がないと埋もれてしまう。その点、地元を題材にしたものは身近で共感でき、自虐的でもうれしく感じるのでは」と話す。
紀伊国屋書店前橋店によると、約70店ある全国の店舗のなかで、おまグンの売り上げは前橋店が1位。3月の月間コミックランキングでは最新刊の7巻が8位に入るなど、1~7巻がベスト30圏内という。「スタッフでは『愛のある自虐』と言っています。マンガ内の元ネタを『わかるわかる』という気持ちがウケているのでは」と担当者は話している。
連載前から群馬県はインターネット上で「日本最後の秘境」「未開の地グンマ」などと面白おかしく書かれてもいた。このように地方の特徴的な部分を自虐的に描いたり、笑いに変えたりするマンガは「地方ディス漫画」と呼ばれる。「悪口を言う」「蔑む」などの意味で使われる「ディスる」からきている。埼玉県が舞台の「翔(と)んで埼玉」(宝島社)や滋賀県と京都府の関係を描いた「三成さんは京都を許さない」(新潮社)なども人気を集めている。
テレビ業界も、そんな新しい形の郷土愛に可能性を感じている。日本テレビでは県民性を題材にしたバラエティー番組が好評という。全国の地域ならではの問題を紹介したり、それぞれの地域出身タレントがトークバトルをしたり。
3月には、おまグンを実写版でドラマ化し、全4話を放映した。番組担当者は「出身地の県民性を自虐的に語るカルチャーは近年、ネットやSNSなどで広く受け入れられており、そこに鉱脈があると感じた」とコメントしている。
深夜の時間帯ながら関東地区の番組平均世帯視聴率は5・3%~3・1%(ビデオリサーチ調べ)。担当者は「深夜としてはとても多くの皆さんに見て頂けた。ドラマで群馬をディスることは勇気がいるが、作品の根底は『地元愛』。そこを丁寧に描くことを心がけた」。7月には映画も公開する。(角詠之)
■「群馬のPRに最も貢献」
群馬県の歴史に詳しい前橋学センター長の手島仁さんの話 「お前はまだグンマを知らない」がヒットしたのは、井田ヒロトさんの群馬への愛情が読み手に伝わるからではないか。自虐的に描かれているとはいえ、群馬を思っていることが伝わってくる。
東京や都市圏に人や物が集まる時代だが、群馬にこんな良いところがあったんだと気づかせてくれた。地方創生のモデルの一つになるかもしれない。自分たちを発信するのが難しいなかで、群馬のPRに最も貢献しているのかもしれない。
■井田さん「命を落とさない程度に頑張る」
井田ヒロトさんのコメント 朝日新聞の購読者の方なら、たいていのディープなネタにはついてきていただけると思って群馬を掘っていくつもりです。触ってはいけない領域に踏み込んで命を落とさない程度に頑張ります。