広島電鉄の車体側面で見つけたウケるちゃん=広島市中区
この春、大阪から広島に赴任し、不思議な絵を目撃した。路面電車の車体に描かれている不思議な「顔文字」だ。白地にカタカナとひらがなを組み合わせただけ。広島電鉄の新しいロゴマーク? 何かの広告? 謎を探った。
“テツ”の広場
とある午後。広島市中区の十日市町電停付近で、西広島方面に向かうワンマンカーが信号待ちで止まった。車体を見ると、妙な顔文字が目に飛び込んできた。おかっぱアタマに、片方の目が「ウ」で、もう一方が「ケ」。口にあたる部分は「る」と書かれている。「ウケる」と読むのだろうか。
ネットで検索すると、企業広告などを手がける広島市西区のグラフィックデザイン会社「ae(エーイー)」が生みの親らしい。会社のロゴやキャラクターにしているようだ。しかし、会社をPRする広告なら、社名や電話番号などを目立つように書きそうなもの。モヤモヤした気持ちで同社を訪ねた。
経営者の辻昇一さん(39)が迎えてくれた。辻さんの説明によると――。
顔文字の正体は「ウケるちゃん」。30代女性の設定だ。4年ほど前、カフェで近くの客が口にした「ウケる」という言葉を、何げなくノートに書き取っていてできた。
「仕事をうける」「おしかりをうける」――。「ウケる」の響きの軽さの一方、多様な意味がある深さにひかれた。
ウケるちゃんのシールを作って名刺交換時に配ったり、うちわに印刷したりしてPRしてきた。
記者が見た広告を広電に出したのは昨秋のこと。縦60センチ、横90センチのスペースを広告契約した。約300両ある広電の車両でたった1両。記者は先日の出会いが実はとてもラッキーだったことを知った。
それにしても、なぜ広電に目をつけたのか。「自分が休んでいる週末でも市内を動き回って人目に触れるって、夢があるでしょ」
廿日市市育ちの辻さんは、広島市の広告デザイン会社などで経験を積み、2009年に独立した。街にあふれる広告は「効果」や「結果」ばかりが求められる。そのことに違和感があったという。「見た人がこれは何?と誰かに話すだけでコミュニケーションが生まれる。遊び心を感じてもらいたかった」と話す。
狙いは思わぬ形でも現れた。3年半ほど前、ウケるちゃんをネットで見て興味を持ったという熊本の男性が、入社したいとやってきた。今、二人三脚で会社を切り盛りする。
「ウケるちゃん」の商標登録はせず、誰でも使える存在にしている。「理想は、『へのへのもへじ』の現代版に育ってくれることです」(北村浩貴)