左がリニアのトンネル出口予定地。周辺は残土処分候補地=岐阜県御嵩町
リニア中央新幹線の建設残土処分候補地の一つ、岐阜県御嵩町の山林に、希少植物のハナノキやシデコブシが群生していることが分かった。保護を求める町の生物環境アドバイザーがJR東海に問い合わせたところ、町は「ルール違反」だとして注意し、退職届に署名するよう求めた。
現地は、同町美佐野のリニアのトンネル出口予定地近くにある山林(約90万平方メートル)。町有地と民地が混在し、かつてゴルフ場が計画されていた。町は県を通じ残土処分の候補地に挙げ、JRが調査している。工業団地にする構想もあり、地元には埋め立てを歓迎する意見もある。
現地には、住民の調査で希少種のハナノキの成木80本、稚樹400本以上が見つかった。希少植物のミカワバイケイソウ、シデコブシの自生や、希少鳥類のサシバの営巣やミゾゴイが目撃されている。
処分地に正式決定しておらず、JRは環境保全措置を公表していない。だが保護関係者によると、最低限の湿地保全、植物移植、種子保存の準備には1年以上かかるという。
御嵩町は産業廃棄物処分場建設の是非を問う住民投票を1997年に実施。環境問題への住民の関心が高く、町独自のレッドデータブックを作成している。
自然保護に携わり、町が生物環境アドバイザーや希少野生生物保護監視員を委嘱する和裁士篭橋まゆみさん(62)は3月、JRに環境調査の報告会の予定などを電話で問い合わせた。
だが町は「準公務員的立場なのに、町を通さずにJRと連絡を取ったことはルール違反」と指摘。4月21日、町職員が篭橋さんを公民館に呼び、注意した。
今後も行動を制約されると告げられ、篭橋さんが「辞めればいいのか」と話すと、職員は事前に用意した退職届を示し署名を求めたという。篭橋さんは町に理由を示して解職するよう求めているが、町は応じていない。担当者は取材に「こちらから『辞めてほしい』とは言っていない」と話す。
篭橋さんは「いま動かないと間に合わないのに、町はJRに意見を言うどころか、口封じだ」と話す。
渡辺公夫町長は「処分地は正式決定していない。今後のJRの計画次第では断ることもできる」と取材に説明する。篭橋さんについては「肩書を利用してJRと話しており、見過ごせない」と話す。ただ、アドバイザーを設ける町指針に解職規定がなく、町は本人から退職の申し出がない限り、2年後の任期満了まで委嘱を続けるという。(編集委員・伊藤智章)
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〈ハナノキ〉 カエデのなかまの落葉高木。日本固有種で、環境省のレッドリストでは、絶滅の恐れがある絶滅危惧2類に分類される。岐阜県東濃地方を中心に長野県や愛知県の限られた山間湿地などに自生する。春に赤い花をつける。愛知の「県の木」とされている。