海岸からライトを垂らし、シラスウナギ漁をする人=3月、明和町
高値で取引されることから、「白いダイヤ」とも呼ばれるシラスウナギ。資源の枯渇が心配されるニホンウナギの稚魚だが、密漁の摘発が今季も相次いだ。何やら組織的な犯罪の臭いもする。取り締まりの現場を見ようと、海上保安部のパトロールに同行した。
午後7時半、三重県松阪市。川の中州に着くと、辺りは真っ暗だった。3月半ばの夜、鳥羽海上保安部のパトロールを取材した。管轄する松阪や伊勢はシラスウナギ漁が盛んだという。
懐中電灯で足元を照らしながら足場の悪い岸辺を歩く。小さな明かりが点々と見えた。水面にライトを垂らし、光に集まってきたところを網ですくい取るシラスウナギ漁の人たちだ。
「よく見てて下さいよ。すっといなくなる人がいますから」と職員。ただ、辺りを見渡しても、誰が密漁者なのかわからない。
職員が一人ひとりに「許可証を確認してもいいですか」と声をかけていく。許可証の名義が本人か、区域内で漁をしているかなどを確認する。地道な作業だ。
ニホンウナギは南太平洋で生まれる。幼生が日本沿岸などにたどり着き、稚魚のシラスウナギが川を上る。県内では、体長20センチ以下(熊野水系は30センチ以下)を捕るには漁協などを通じて県の特別採捕許可を取る必要がある。無許可で漁をしたり、許可された区域外で漁をしたりすると県漁業調整規則の違反となる。
県内の海上保安部は今年に入って、9人を摘発した(4月24日時点)。許可証そのものを持っていなかったのは1人。許可された区域外で漁をする「密漁」が多いのが実情だという。
シラスウナギ漁の漁師は稚魚を養鰻(ようまん)業者や仲買業者に売り、現金に変える。仲買業者は漁師から稚魚を買い集め、まとまった量で養鰻業者に売る。稚魚の価格はその年に遡上(そじょう)するシラスウナギの量によって上下し、県内の養鰻業者によると、不漁続きだった2012年ごろは1匹600円まで高騰した。大漁だった14年は30円に下がった。
「昔は一晩で80万円を稼いだ人もいたと聞く。密漁者は、自分もそれぐらい稼げるんじゃないかと思って捕ってしまうのかもしれない」と関係者は話す。
鳥羽海保のパトロールは次の地点へ向かった。
伊勢湾沿いを走り、明和町の海岸で、漁をしている親子に話を聞いた。
2人は元々、釣りが好きで、趣味の延長でシラスウナギを捕り始めたという。昼間は仕事をしており、週末の夕方などに漁をしているという。1日に捕れるのは1人約20匹。知り合いの養鰻業者に買い取ってもらうが、値段は千円ほど。末端の漁師には、1匹あたり約50円程度しか入らないという。2人は「行き帰りのガソリン代にしかならない。ただの趣味ですよ」。
海岸沿いを走り、止まっている車を見つけては、持ち主を探す。伊勢市で午後9時半に最後のパトロールを終えるまで、約30人近くに声をかけたが、この日は密漁者はいなかった。
約2時間のパトロールでへとへとになった私に職員は言った。「密漁者は現行犯で検挙するしかない。摘発できているのは全体の一部にすぎません」(国方萌乃)