志賀島に移住し、カレー店を開いた安達和紀さん(左)と江藤司紗さん=3月、福岡市東区、高橋尚之撮影
若者が集まり、人口が増え続ける福岡市。九州を代表する大都市だが、一方で「人口減対策」という課題も同時に抱える。にぎわう中心部とは対照的に人口が減り、高齢化が進む地域もあるからだ。市はまず志賀島を舞台に、開発規制の緩和による「移住解禁」に乗り出した。
■カレー店・カフェ開業
福岡市東区に属する志賀島。博多港から船で30分ほどの船着き場近くには民家が並ぶが、中でもひときわ目を引く新しい店がある。昨年12月に開業したカレー店「MEGANE CURRY(メガネカリー)」。休日には観光客らでにぎわう。
店を営むのは、元ウェブデザイナーの安達和紀さん(27)だ。福岡市南区の大橋に住む会社員だったが、「田舎暮らし」への憧れがあった。一念発起し、昨年秋にパートナーの江藤司紗さん(24)と志賀島に移り住んだ。
店舗は木造2階建ての空き家を改装し、賃貸料は月3万円。「固定費を抑えられ、経営も思ったより安定してきた。自分のペースでのんびりやっていけそうです」と安達さんは話す。
安達さんが店を開くことができたのは、福岡市の規制緩和があったからだ。1971年に市に編入された志賀島は、当時から「市街化調整区域」に指定され、住民以外が住宅や店舗などの建物を新築したり、空き家をそうした用途に貸し出したりすることはできない状態が続いていた。
豊かな自然を守るための規制だったが、むしろ人が移り住みにくくなるといった「弊害」も指摘されてきた。86年には約3千人いた住民は、2016年に約1700人まで減っている。
そこで、島の南東部の住民が市に規制緩和を求めるようになった。「今の暮らしぶりを変えたくない」と否定的な声もあったが、話し合いを続けた結果、大半の住民が「地域の将来のため必要」と同意した。市は15年9月、市街化調整区域の中でも、住民の合意が得られた地域では開発規制を緩められるようにした。志賀島全体のうち約1%とわずかだが、南東部の約5・7ヘクタールで規制が緩和された。
事実上の「移住解禁」となり、今年2月にも、東京から来た夫婦が「メガネカリー」と同じ通りにカフェを開いている。島の住民に協力して規制緩和を訴え、移住者向けに島内の空き家を紹介している山崎基康さん(32)は話す。「島は市の中心部に近く、海や自然など観光資源もあり、潜在力は大きい。きめ細やかな情報提供ができれば、移住の需要は確実にある」