路上喫煙禁止地区に設けられた喫煙スペース=大阪市北区
2020年の東京五輪・パラリンピックに合わせ、社会の仕組みを変えようとする動きが相次ぐ。あちこちで響く「五輪だから」のかけ声。ただ、そんな空気に戸惑う声もある。
コンビニエンスストアに並ぶ成人向け雑誌。水着姿の女性らが写った表紙の一部を隠せないか――。
一部の店で試そうと、千葉市が大手コンビニと検討中の取り組みだ。青少年の健全育成に加え、五輪で訪れる外国人観光客にも配慮するねらい。熊谷俊人市長は2月の会見で、「(今の販売方法は)国際基準から疑問を持たれるかどうかというと、配慮は十分でない」と説明した。
市役所近くのコンビニで買い物中の女性(26)は「子どものためにはよさそう」。一方、16年前に中国から来日して市内で暮らす林長敢さん(34)は「日本の売り方に驚いたけど、五輪の外国人客のために変えるのは変。大人は(成人向け雑誌から)悪い影響を受けないのでは」
厚生労働省は受動喫煙防止対策に力を入れる。近年の五輪の開催地は、公共交通機関や飲食店での屋内完全禁煙を法令化してきたが、日本の対策は努力義務にとどまり、世界保健機関(WHO)から「世界最低レベル」と指摘される。塩崎恭久厚労相は3月の国会で、「受動喫煙規制が当然という来日者へのおもてなしの観点からも、全力を挙げたい」と述べた。
厚労省が検討する受動喫煙防止策を罰則付きに強化する法改正案では、例えば、鉄道は「車内禁煙(喫煙専用室の設置は可)」。だが、長距離路線もある近畿日本鉄道では特急の一部で喫煙車両が残り、デッキに喫煙室を設置しながら禁煙の車両に切り替えているが、東京五輪には間に合わない。同社は「法改正されたら前倒しして対応するが、一律に急な全面禁煙ではなく、猶予期間をいただきたい」と求める。
3本の湯気が立つ「温泉マーク」も、見直しを迫られた。外国人には「温かい料理」に見えてわかりにくいとして、経済産業省が五輪に向けて入浴者も加えた新案を公表。ところが、温泉関係者の反対で、現行図柄と新案を併存させることになった。
「国内最古の温泉記号発祥の地」を名乗る群馬・磯部温泉の桜井丘子・温泉旅館組合長(78)は「マークの由来を説明することこそがおもてなしで、五輪客へのPRになる」と話す。
国会では、犯罪を計画段階で処罰する「共謀罪」の趣旨を含む組織的犯罪処罰法改正案が審議中だ。政府は東京五輪のテロ対策としての必要性を強調。安倍晋三首相は「20年を新しい憲法が施行される年に」として、憲法改正への意欲も明言した。「五輪・パラリンピックの20年を日本が生まれ変わるきっかけにすべきだ」と訴えている。
昨夏に出版された「反東京オリンピック宣言」の編著者で、神戸大の小笠原博毅教授(社会学)は「『東京五輪』を魔法の言葉のように使って政策が進められ、世の中が受け入れ、一気に物事が変わりうる空気がある」と指摘。「本当に必要なことなら、五輪や外国人客に関係なく、実現されるものなのでは」と話す。(佐藤恵子)