メディカルチェックのあと、ストレッチの指導を受ける東邦の部員たち
■肩・ひじを守る
安楽、5試合772球 球児の連投、止めるか認めるか
小中学生の野球ひじ、痛みなくても注意 骨変形の恐れも
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「もし、あのときに戻れるなら」。2013年の選抜で、済美(愛媛)のエースとして3連投を含めて772球を投げた安楽智大(現楽天)が振り返る。「肩やひじの状態を専門的にみる理学療法士やトレーナーさんがチームに専属でいてくれれば」
安楽は選抜の半年後に右ひじを故障。連投との因果関係は分からないが、「甲子園出場が決まったら、専属で1人つければいい。選手たちの体を日常的に把握できる人がいれば、けがをする選手は減ると思う」。
専門家による定期的なサポートを積極的に採り入れているのが東邦(愛知)だ。
愛知医科大学病院で1年生を中心にメディカルチェックを受けるのを2年前から始め、今年は4月16日、1年生23人と主力選手ら計45人が病院へ。「けがを隠して悪化させるのが一番よくない」と説明された後、肩やひじの検査を受けた。去年も今年も、けがが見つかった選手がいた。
森田泰弘監督は「多くの子が高校で硬式野球を終える。特に2、3年目の大事な時期を棒に振ることがないように環境を整えるのが大切」。投手陣は週に1度、練習の一環として同病院でコンディショニングの指導も受ける。「選手は肩周りや股関節の柔軟性が高まり、故障も少なくなった」と監督は効果を語る。
「投げすぎ」をなくそうと取り組む高校もある。大阪府内の旭、門真なみはや、懐風館など6校が集まり、3年前から9~11月に私設のリーグ戦を行う。今年は2校増えて、8チームに。目的は「選手をつぶさず、経験を積ませる」「次のステップ(大学やプロ)を見据えた育成」だ。
週末を中心に各校が1日2試合ずつリーグ戦をする中で、投手には球数制限がある。1年生は75球、2年生は90球以内で、連投は禁止。ひじに負担がかかるとされるスライダーやフォークを投げてはいけないというルールもある。
1人の投手に負担が偏らないだけでなく、多くの投手が経験を積める。旭の井上芳憲監督は「負けたら終わりのトーナメントの公式戦では投げられなかった投手が、私設ではあるけれども、ただの練習試合とは違った経験を積める。投手は複数必要。『つくる』より、自然に育つようにしたかった。可能性は見えたと思います」。
タイブレークや投球数、イニング制限、日程の再考……。日本高校野球連盟はこの秋にも、投手の負担軽減に向け、一定の施策を打ち出す方針だ。
竹中雅彦事務局長は「医師の意見も参考にすると、故障予防の理想は球数制限」と話す。「ただ、部員が9、10人といった少人数の高校も多く、球数を制限すると試合が成立しない恐れがある。高校野球にはそぐわない」というのが現状の考えだ。
「次善の策」として検討しているのがタイブレークだ。すでに春の都道府県、地区大会で試験的に実施しており、現場でも導入に肯定的な意見が増えてきたという。「タイブレークで再試合はなくせる。もちろん、それだけで十分とは言えない。日程を含め、今後も投手の負担を減らせるよう考えていく」と言う。(上山浩也、小俣勇貴)
■議論深める必要ある
投球過多への対応の議論が本格化したのは、2014年だ。前年に安楽投手の連投があり、問題視する声の高まりがあった。
日本高野連は甲子園でのタイブレーク導入を前向きに検討している。再試合という劇的な展開より、投手の連投を防ぐことを優先とした具体策として、即効性があるのは確かだろう。
ただ、タイブレークは限定的な措置にすぎない。今春の選抜で言えば、対象は2回戦で引き分け再試合となった4チームだけだ。春も夏も、大会終盤の過密日程は変わらない。
高校野球は16万人超がプレーしている。地方大会1勝を目指す高校もあれば、全国制覇を狙う高校もある。事情は様々で、地方によって決勝までの試合数にも差がある。「正解」は一つとは限らない。
だからこそ、球数や投球回数制限は本当にできないのか、休養日を増やせないのかなど、議論を深めていくことが必要だ。各都道府県や地区、甲子園とで対応策が違っても構わない。優先されるべきは球児の未来である。(山口史朗)