実は「なんちゃってイクメン」?
イクメンと見られていた男性が、妻の不満に気付けず、離婚に――。育児に積極的な父親が増えた一方、自己満足なイクメンに陥ってしまうケースもあるようです。その落とし穴とは?
投稿:「なんちゃってイクメン」と思ったことは?
ジャーナルM一覧
子育て世代のページ「エムスタ」
「イクメン」が新語・流行語大賞のトップテン入りした2010年、2人の子どもがいる東京都の会社員男性(43)も当時、周囲からイクメンと言われていた。休日は育児や料理をこなし、地域の父親の集まりにも積極的に参加し、我が子も連れて児童館で絵本の読み聞かせなどをしていた。「父親の育児参加を普及させることは社会的意義がある」と考え、多くのメディアの取材も受けた。
だが共働きの妻は、不満をため込んでいたのではないかと男性は振り返る。いつしか夫婦の会話は減っていった。結局、別居し、子どもと離れ、今年離婚に至った。
なぜか。男性は別居直前、1人で夫婦のパートナーシップを学ぶ講座を受けた。そこで夫婦の会話を振り返り、「僕は仕事も育児も頑張っているんだから妻に理解してもらえるはず、という感じになっていた。妻に対して感謝やねぎらいの言葉が足りず、妻とのコミュニケーションを優先することがなかった」と気づいた。
毎週のように、パパ友との活動に子どもを連れていって、「妻も1人になれて気分転換になるだろう」と思っていた。でも、「一緒に出かけたかったのを無視していたのかもしれない。イクメンとして活動しながら、かたや家庭を顧みていなかった。自己満足だった」。
■気付いた時には手遅れ
他にも思い当たる節はある。07年に2人目の子どもが生まれたときは仕事が忙しく、上司も育児に理解がない。ほぼ毎日未明に帰宅。当時は、男性が家事や育児に参加することなど考えもしなかった。産後のつらい時期の妻を労わることがなかった。「子どもがうるさい。寝かせてくれ」と言ってしまったこともある。のちに妻から「あの時はなにもしてくれなかった」と言われたという。
自分が育児や家事をきっちりこなせば家庭が幸せになると勘違いしていた。「欠けていたのは妻とのパートナーシップではないか。たわいない話で笑顔の絶えない明るい家庭を築くことが本意であったのに、それができなかった。気づいた時には手遅れだった」
パパ友の中でも、子どもが大好きで父親同士で我が子をいろんな所へ連れ出す一方、妻をおろそかにしているように見える人も少なくないという。「各家庭で夫婦円満の形は様々だと思うが、家族みんなが幸せでいられるには何が大事か、自身の普段の言動を振り返って考えてほしい」と自戒を込めて言う。
子育て中の父親を支援するNPO法人ファザーリング・ジャパン(FJ)が昨年9月に発表した、小学生以下の子がいる約2千人の男女への調査でも、妻の方が離婚を意識する割合が高いことが浮き彫りになった。
「離婚したいと思ったことがある」と答えたのは、夫が35%に対し、妻は50%。そのうち「毎日思う」「月1~2回」と答えた妻はあわせて約2割いた。
妻からみて夫との関係を良くするために必要なことは、「夫からの『感謝』や『ねぎらい』の言葉」と「夫とのコミュニケーション」が半数近くを占めた。夫婦関係が円満な人は不満な人と比べて、夫婦の会話時間が3倍長いという結果も出た。
FJ代表理事で二男一女がいる安藤哲也さん(54)は「男性は子育てのノウハウを知りたがるが、大切なのは妻の幸せを考えること。ママの心が満たされれば、笑顔で子どもに向き合える。直接的に育児に関わっていなくても、妻を支えることが間接的な育児になる」と話す。
■主体性欠けるパパ
「オムツ替えはするけど、うんち(特に下痢)の時はNG」「子どもの病状に応じた、かかりつけの病院を知らない」「育児に費やす時間を他のパパと比べて自慢する」
イクメンを提唱した著書がある東レ経営研究所の渥美由喜さん(49)は、こんな傾向を「なんちゃってイクメン」に見る。「自分は育児に向き合っている方だ」と思っている男性も、実際は妻任せで、自己満足に陥りがちという指摘だ。
渥美さんは「男性は妊娠、出産がない分、子育てに主体性や当事者意識が欠けやすい。妻に『手伝おうか?』とか『家族サービス』とか言ってしまう。将来、お父さんの子どもでよかったと思われるには、自分で考え行動することが大切」と説く。
意識は変えられるのか? 「夫婦で赤裸々に起きたことを伝えましょう。子どもと2人でいる間、どれだけ修羅場があるかは経験しないと分からない。メールや動画で交換日記をすることも一つの方法です」と提案する。2人の子どもがいる渥美さん自身、妻と交換日記を続けてきたという。
「男性の育児参加をポジティブに捉えられる言葉として『イクメン』を言い始めたが、自分をアピールする言葉として使う男性も出てきた。イクメンにふさわしい人ほどイクメンという言葉を嫌う。それは、当たり前のことをやっているという認識があるから。イクメンを自称すること自体、かっこ悪い世の中になってほしい」(毛利光輝)