明徳義塾戦で、5打席連続で敬遠される星稜・松井=1992年8月16日、阪神甲子園球場
1992年夏の甲子園、松井秀喜選手への5打席連続敬遠は、日本中で論争を呼んだ。
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野球は勝負事。一方で日本学生野球憲章は学生野球を「教育の一環」と明記している。そのはざまで意見が分かれる選択を巡り、選手や指導者、ファンの間で議論が戦わされるのも、高校野球が長く愛され続け、それぞれの「高校野球観」があるからこそだろう。
朝日新聞さいたま総局は7月8日に開幕する第99回全国高校野球選手権埼玉大会(県高野連、朝日新聞社主催)の出場校の監督へのアンケートで、その5連続敬遠について「あり」か「なし」かを尋ねた。
有効回答151人のうち「あり」と答えたのは79人(52%)。あくまでも勝利を目指す「戦術」として肯定する意見が多数を占めた。「あそこまで徹底できた監督を尊敬する」「勇気がすごい」と明徳義塾・馬淵史郎監督の決断を称賛する声も多かった。
「なし」は51人(34%)。多かったのは「勝利が全てではない」「努力した成果を発揮させてあげたい」という答えだ。努力してきた投手のためにも、勝負させるのも重要という考えのようだ。
「どちらとも言えない」「その場に立たないとわからない」という意見も複数あった。いくら強打者相手でも、状況や選手の調子で判断は変わるという。
■「あり」の監督、勝敗にこだわる
「あの時の松井は別格。絶対に勝負はできない」と話すのは叡明(越谷市)の中村仁一(としかず)監督(52)だ。
自身も日頃の練習試合から、投手に敬遠を指示することは多くある。例えば2死二塁で4番打者を迎えたとき。一塁走者を出しても状況が大きく変わらない場面では歩かせる。試合の勝敗を考えれば、そこでためらうことはないという。同様の場面を想定し、普段の練習試合から「四球を出す練習をしている」。
浦和実(さいたま市)の田畑富弘監督(38)は、4番だった松井氏に一度でも打たれたら、試合の流れを持っていかれた可能性があると考える。「例えば3点勝っている場面で、満塁で松井を迎えたら、押し出しでもいい」。逆転満塁本塁打のリスクを考え「迷わず1点を捨てる」と話す。
■「なし」の監督、経験を重視
「全打席敬遠は100%しない」。春日部共栄(春日部市)の本多利治監督(59)は断言する。
作戦上、敬遠を指示することはあるが、全打席でしてまで勝負にこだわるのは「教育上考えられない」。超高校級の打者と対決できないのは、努力してきた投手のためにもならないと考える。「勝負できずにつらい思いをさせたくない」
山村学園(川越市)の岡野泰崇監督(41)は「素晴らしい打者と対戦させてあげたい」と話す。自身も立教大時代に川上憲伸(明治大、中日など)、高橋由伸(慶応大、現巨人監督)といった名手と対戦。「そういう経験は一生の宝になる」。自身が生徒に話しているのと同様、彼らが指導者や父親になった時に、子どもに伝えられる貴重な体験になると考える。(笠原真)
■その他の意見
【あり】
・ルール上問題はなく、勝つためなら仕方ない
・松井氏が日本を代表する打者になると感じた馬淵監督の眼力がすごい
・一つの戦術。「なし」とは言えない
・観客よりも、自分たちの勝利を考えることが優先
・勝利のための最善の策をとったはず。それをやりきれる監督だからこそ、常勝チームを作れると思う
【なし】
・「勝利至上主義」と教育は違う
・チーム、選手は何も得られない。高校野球にはあってはならない
・走者なしなら勝負するべきだ
・勝敗が全てではなく、互いに全力を出すのが高校野球
・甲子園という舞台だからこそ、勝負する気持ちを持ってほしい