「パイレーツ・オブ・カリビアン/最後の海賊」の字幕
名作映画には名訳あり。字幕は単なる直訳ではない。わずかな字数の中には、字幕翻訳者の知恵と工夫がつまっている。セリフの前後のつながりを考え、行間を読み、的確な日本語を選び出す職人技が、観客を映画の世界にいざなう。
「君の瞳に乾杯」。
映画「カサブランカ」で、ハンフリー・ボガートが酒場でイングリッド・バーグマンに向かって、「Here’s looking at you,kid(君を見ながら乾杯)」と言うシーンの日本語字幕だ。故・高瀬鎮夫の名訳は、作品と共に人々の記憶に残っている。
黎明(れいめい)期から字幕に関わってきた故・清水俊二の『映画字幕は翻訳ではない』(早川書房)によると、日本で初めて字幕が付いた外国語映画は、1931年公開の「モロッコ」。興行的にも成功し、字幕が普及した。実は同年、吹き替え版の第1号「再生の港」も公開された。だが米国で暮らす広島出身の日本人が吹き替え、セリフが方言となり散々な結果になったという。無声映画時代は活動写真弁士の語り付きの上映が慣れ親しまれていたこともあり、清水は「もしこの日本語版がひととおりのできばえだったら」と記す。
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映画の字幕はセリフの直訳では…