大行司駅のホームに取り残された2両編成の「キハ147」。前後の線路は崖崩れなどの被害を受けていた=15日、福岡県東峰村宝珠山
瓦ぶきの三角屋根に板張りの壁。古い映画の一コマのようなレトロ風情で親しまれたJR日田彦山線大行司駅(福岡県東峰村)の駅舎が、九州北部豪雨で倒壊した。移ろう時代と地域の変遷を見守り70年。変わり果てた姿に心を痛めながらも「人が集う場所の再建を」と願う人たちがいる。
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柱や土台が崩れて土砂に埋まり、ゆがんだ屋根が地面に覆いかぶさっている。
「台風にも負けずに残っていたのに……」。無念そうに話す井上佳子(よしこ)さん(49)は、駅のすぐ近くで生まれ育った。
駅舎は1946年の旧彦山線の延伸に合わせ建てられた。当時、村内には宝珠山炭坑があり、石炭運搬を担う同線沿線はにぎわった。63年に閉山し、無人駅に。2008年に駅舎はJRから村に譲渡された。
井上さんは、待合室としてだけ使われていた駅舎を13年に借り上げ、駅員室だったスペースに駅喫茶「匙加減(さじかげん)」を開いた。「大好きだった建物が使われないのはもったいない。自分が何かやらなければ」と、「前例がない」と渋る村に何度も掛け合った。
石炭ストーブで黒くすすけた柱や梁(はり)の風合いを生かすため、照明は裸電球に。テーブルも英国製のアンティークにした。地元食材にこだわり、食器はすべて村特産の「小石原焼」だ。近隣住民が持ち寄るコメや雑貨なども店頭に並べた。
いつしか「レトロな駅喫茶」と評判になり、北海道からも客が訪れるように。地元住民の交流と憩いの場として欠かせない場所になった。俳優・高倉健さんの父親は宝珠山炭坑で働いていた。「健さんが出てきそう」と喜ぶ人もいた。
豪雨に襲われた5日、井上さん…