八回裏早稲田実1死一塁、野村の遊ゴロで封殺された走者の清宮君は、ベンチへ引き揚げる=30日、神宮球場、林敏行撮影
少し涙もろい、「怪物」の夏が終わった。高校通算107本の本塁打を放つなど注目の強打者、清宮幸太郎君(3年)を擁する早稲田実が30日、西東京大会の決勝で東海大菅生に2―6で敗れた。
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試合終了直後、主将の清宮君は笑顔で、東海大菅生の主将の小玉佳吾君に「絶対勝ってこいよ」と声をかけた。だが、インタビューでチームメートへの思いを聞かれるとうつむいて30秒ほど沈黙。顔を上げた時は涙があふれ、「みんなついてきてくれ、準優勝ですが、日本一のチームだと思います」と絞り出した。
副主将の福本翔君は「案外泣くんですよ、清宮は」と明かす。西東京大会の準々決勝の後のミーティング。「(昨夏)悔しい思いをした3年生の姿を見ているだろ。こんなところで負けられない」と清宮君が泣いた。「そういう気持ちを出してくれることで、みんな頑張ろうと思った」と福本君は言う。
この日は追いかける展開。2点を追う早稲田実の八回裏1死、無安打だった清宮君が打席に向かった。「次につなげよう」。初球は引っ張って大きな飛球。スタンドがどよめいたが、切れてファウルに。2球目を振り抜き、右前安打。しかし、併殺でチャンスはついえて、二塁から戻る時に天を仰いだ。甲子園出場を逃し、108本目の本塁打も出なかった。
高校進学前から注目を集め、1年生の時に甲子園で2本塁打を放って「怪物」と呼ばれた。「注目されるのはうれしかった。お陰でここまで成長できた」と語るが、主将になってからは記録への思いは口にしなかった。「チームが勝つこと。そこは変わらない」
3年間を振り返り、清宮君は「選抜にも出て(夏も)決勝まで来ることができて、どの代よりもたくさんのことを学べたと思う」。進路については「(進学かプロかは)決まっていない。高校よりもっと長い間、野球をやることになると思う。最後に良かったなと言えるような、今日の負けにしたい」と答えた。
神宮球場にはこの日、108本目の本塁打を期待する観客など3万人が来場。午前6時50分ごろ開門し、当日券1万5千人分は、午後1時の試合開始の約2時間前に売り切れた。
友人と前日夜から並んだ東京都板橋区の会社員、河連洋平さん(21)は試合後、「本塁打が見られず残念。でも主将として最後まで声を出し続け、チームを勝たせたい気持ちが見えた。自分も何事もあきらめないで取り組もうと思った」と満足げだった。(山田知英、吉野太一郎)