2人の弟や母親と話すマディソンさん(右から2人目)=米カリフォルニア州ラバーン、大久保真紀撮影
■小さないのち みんなで守る
失われていたかもしれない命が、米国では次々と救われている。育てられない赤ちゃんを匿名で預けることができる「赤ちゃん安全保護法」が全米各州に広がる。2001年に法律ができた先進地のひとつ、カリフォルニア州を訪ねた。
小さないのち特集「小さないのち」
ロサンゼルス郊外のランチョクカモンガ市。消防士で救急救命士のジェイ・デイベンポートさん(54)は、16年前のことを今もはっきりと覚えている。
「赤ちゃんを渡したい」という女性がショッピングセンターの駐車場にいるとの連絡があり、急行した。待っていたのは30代半ばの白人女性。緊張し、警察に通報されないかと警戒しながら言った。「赤ちゃんを渡せる制度があることを知った。名前は言わなくていいんでしょ」
「僕らは助けるために来たんです」。デイベンポートさんらが優しく語りかけると、女性はやっと落ち着き、話しだした。結婚してすでに3人の子どもがいること、貧乏で4人目を育てられないこと……。「この子のためになると思って来た」
女性は、車の後部座席に乗せていた生後まもない女の子の赤ちゃんを抱き上げ、何か耳元でささやいた。少し寂しげな表情で、赤ちゃんを手渡した。デイベンポートさんが健康状態をチェックしたところ、異常はなかった。法律に基づき、母親は名前を名乗る必要はなく、刑事責任も問われない。
その間約15分。まもなく女性は車で去った。デイベンポートさんは赤ちゃんを救急車に乗せ、近くの病院へ。看護師に引き継いだ。「君はとてもラッキーだよ。元気に生きてくれ」。心の中で語りかけた。
「法律ができる前は、仕事柄、家の風呂場で産み捨てられて死んだ赤ちゃんを見た。この子も以前だったら捨てられていたかもしれない。母親はつらかっただろうが、赤ちゃんの将来が救われたと思うと本当にうれしかった」。デイベンポートさんは振り返る。
マディソンと名付けられた赤ち…