日本史の授業で、サザエさんの登場人物になりきる東京都立青山高校の生徒たち=東京都渋谷区神宮前2丁目
18歳から投票できるようになったのは、つい昨年のこと。今回は突然の選挙に、政党ができたり、見えなくなったりで戸惑う人もいるでしょう。寄せられた若い人の声を中心に紹介します。
わたしの未来 2017年衆院選
■ビジョン 先の先まで
消費税の増税と国会議員数の削減、国家予算の縮小などを通じて財政赤字を解消し、私たちが年金受給者になるころに十分な年金を受け取れるよう、国の財政を立て直してほしいです。
また、育児支援策も充実させてほしい。待機児童の問題や、共働きの親の支援など、まだまだ十分でないところがあると思います。10年後、さらにその先の日本を担っていく子どもたちに向けた、長期的なビジョンを打ち出してほしいと思います。
初めての国政選挙で、投票が楽しみです。政治家は期待を裏切らないよう願っています。(東京都 高校生 磐本新之介・18)
■投票率をどう上げる
衆院選に向けて新聞から目が離せない。私が住んでいる選挙区は自民党がめっぽう強いが、東京都議選では自民の候補者が敗れた。
それなのに、家族で政治情勢を気にしているのは私だけのようだ。18歳になった弟はまるで興味なし。母も「こんな選挙は行きたくない」といい、番組が政治関連になるとテレビを消す。私が父に「自民党と希望の党は同類ではないか」と問いかけても笑って受け流される。はなから情報を閉め出してしまう。
どうしたら投票率は上がるのだろうか。「その一票、いらないなら私にくれ」と言いたくなるぐらいだ。
(東京都 無職 小原智恵・24)
■介護職員 待遇改善を
戦後のベビーブームに生まれた「団塊の世代」が全て75歳以上の後期高齢者となり、様々な社会問題が生じると予想されている「2025年問題」。今から10年後は、それに直面しているころだ。
社会保障費は今よりだいぶ増え、それを賄うため消費税は10%どころか15%になっているかもしれない。経済政策がうまくいって、景気が良くなっていてほしい。
そして私が働く介護分野でも、景気回復を実感するために、大幅な介護報酬のプラス改定を望みたい。介護職員の待遇が改善され、離職せず長く働けるように。期待している。(徳島県 介護職員 林大輔・23)
■世界の国々と平和に
核兵器や戦争が世界からなくなり、その分お金が貧困や災害で困っている多くの人のために使われる社会に変わるべきだ。戦争からは何も生まれないといった、初心に帰ることが必要だ。
若い世代は将来、国を背負っていく立場になる。そうなるためには、世界の若者が世界各国の政治を詳しく知り、平和の心を多くの人が持つことが大切である。人間が存在する限り、政治は続く。世界の国々が共存していくためには、将来を見据えた国同士の思いやりの行動と、助けを必要とする人たちへの世界的な協力が必要だ。
(東京都 高校生 本庄歩・18)
■教員の数を増やして
私は公立学校の教員で、今は育休中だが、現場の人手不足は深刻だ。朝は部活をみてから授業をし、休憩はほとんどなく、残業は当たり前。家に持ち帰って授業の準備やテストの採点をせざるを得なかった。このままだと教員が潰れ、生徒の学力に重大な影響を与えかねない。教育無償化も大切だが、まずは教員の数を増やし、質を上げられるかが日本の未来を左右すると思う。
政党が掲げる幼児教育の無償化や奨学金制度の見直しは、一見明るい未来につながっているように思えるが、その財源を考えると結局、借金返済の先延ばしにしか思えない。(神奈川県 教員 柏木麻友・28)
■就職したいサザエさん 「女性の活躍」高校生が考える授業
もし、あのサザエさんが「働きに出たい」と言ったら――。東京都立青山高校(渋谷区)で、生徒たちが即興で人気マンガの登場人物になりきる日本史の授業がありました。女性の活躍を取り巻く様々な課題を、身近に考えようという試みです。
「タラちゃん、私、働きに出たいんだけど、いいかな」
「保育園行くですぅ」
5日にあった3年7組の授業。専業主婦のサザエさんが勤めに出るという設定で役が割り振られ、台本なしの寸劇が始まりました。
「サザエのしたいように。僕はサザエを信じているよ」と優しい夫マスオさん。しかし父親の波平は「家事はどうするんだ」と、首を縦に振りません。
「カツオ、手伝ってもらえる?」
「僕は料理できないんで」
タラちゃんのお世話に家族のご飯の用意……。結局、家族の誰からも積極的な協力の言葉は得られず、サザエさんの希望は棚上げになってしまいました。
「正解はないから」と担当の本杉宏志先生(57)。でも、実社会で育児と仕事を両立させるには、待機児童問題が待ち受けます。「みんなも10年後、たぶん現実になる」
「誰も味方がいなくて……」と残念そうなサザエ役の吉田凜さん(17)に、あえてNGを出した波平役の三品芽生(みしなめい)さん(18)はそれでも、「人口が減る中、10年後は女性が活躍できる社会になるはず」。刀祢仁生(とねじんせい)さん(18)は女子の声を聞き、発見があったといいます。「専業主婦が普通と思っていたけど、みんな働きたいんだな、と。職場に保育所があればいいんじゃないか、と思った」
本杉先生は20年余り前、育児休業を10カ月取得した経験があります。保育所の送り迎えも妻と分担するなか、歴史教科書の登場人物がほとんど男性ばかりだと改めて気づき、授業に男女や家庭の視点を盛り込む工夫を始めたといいます。サザエさんの授業も、その一つです。
日頃、「受験のために勉強しているんじゃない」と口にしている本杉先生が、授業の最後に「選挙権、持っている人」と尋ねると、25人中14人が手を挙げました。「みんなが生き生きと活躍できる社会を考えて、選挙に行ってきたらいいと思うよ」
選挙権のある三品さんと刀祢さんは「若いけどそれなりの意見はある。投票に行きます」と口をそろえました。(吉田晋)
■「候補者の声 高校生にも」
ほかにも10代、20代から声が寄せられています。
●「保育園でパートで働く母の姿を見ていると、人手不足は明らか。保育士不足を最優先で取り組むべきだ」(東京都・10代男子高校生)
●「駅前で候補者が演説し、ビラ配りをしていますが、高校生はビラどころかあいさつもしてもらえません。学校でいくら有権者教育をしても、候補者の声が高校生に届かなかったら投票率は上がりません」(茨城県・10代男子高校生)
●「『私、本当にこの国で働きながら出産・子育てできるの?』というのが心境。少子化で『もっと産んで』と言われながら、同時に『女性活躍、外でも働け』、しかし『保育の環境は自分で』。勝手が過ぎます」(東京都・20代女子大学生)
●「正直自分の一票に価値があるか自信を持てないが、ただ一つ言えるのは、自分たちの世代の投票率が上がらなければ、議員は自分たちに向けた政策を積極的に考えてくれない」(東京都・20代男子大学生)
●「消費税の税率を上げたり、新税をつくったりするのではなく、国の予算の使い方を見直さないと、この国はつぶれてしまう。まずは議員定数削減から取り組んで欲しい」(東京都・10代男子高校生)
●「一度退職して出産・育児が一段落してから再び働こうとする女性を、正社員で受け入れてくれる企業や職場が増えて欲しい」(東京都・10代女子高校生)
●「日本が唯一の被爆国なのに役割を果たせていない。国家の代表という同等の立場なのに、今の日米関係をみると米国に気を使いすぎている」(熊本県・10代女子高校生)
●「解散・総選挙にあまり良い思いを持っていない。他党の批判ばかりで、その党のセールスポイントがつかめない。国民は、日本の将来のために税金を納めていると思う。15歳で選挙にはいけないが、日本の将来を一番考えている党が日本の政治を担って欲しい」(東京都・10代女子中学生)
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